もののけ姫

□青天霹靂
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強張る顔で呟く、仕事柄かいろんな町や漁港に行く為多くの噂話や情報を得る事が出来るのだが
春日山城の堀秀治東軍武将が統轄する越後国は情勢は大きく揺れ隣国の松代城の森忠政氏とは
一触即発の間柄、そんな時に遠く離れた北にある堀越城の津軽為信氏から春日山城の1人娘を
嫁として娶る事が出来れば自分の国の勢力を貸すと言いやった。しかし浅ましきは人の心か
堀秀治氏は先に兵力をこちらに来させてから姫を送らせ油断させた隙に堀越城を攻め落とし
我が領地にする事を目論んだ、総動員で兵を出払っているせいで城の守りも薄く遠く離れた地にいる
兵はなすすべがないだろうだが津軽為信氏も姫を支柱に収め春日山城の守備を聞き出し
攻め落とす事を考えていた。

だが互いに思わぬ事態が生じた、堀越城に向かう途中に南部利直軍の襲撃を受ける。
ひそかに後追っていた堀秀治軍、津軽為信軍そして南部利直軍の三つの軍が阿鼻叫喚の混戦になったのだ
三つの軍は死に物狂いで戦い続け動く者すべてに斬りかかる残党の如く戦い生き残った者は
誰もいなかった、予期しない横槍に2人の目論みは成功する事無く今までと同じ現状に元に戻ったのだ。

「混戦で共にいた姫も殺されただろう、だが堀秀治は自分の娘が死んだと言うのに
嘆き悲しむ事もなく飄々と輿に乗り城下を散策三昧。」

「・・・身代わりか。」

はっと気が付いたアシタカは神妙な面持ちで言う。攻め落とそうと目論んでいたのなら
実の娘を行かせるとは考え難い、顔も見ていない姫がすり替わっていたとしても相手は気付かないだろう。

「だろうよ、毎日おなごの着物や装飾品を買い漁り
あまつさえ死んだ筈の姫を見た奴も出でくりゃあ確実だ。」

自分の娘可愛さの余り替え玉を用意し代わりに行かせた日から環境庁長官の姿も消えた、
姿を消した事に不信感を抱いた者達から聞いたのは深夜に春日山城の使いの者が仕立て屋の前で
環境庁長官と話しをしていたがそのまま駕籠に乗せられ城に向かった姿を目撃した者がいたのだ。

「身代わりにさせられたのは確実、乱戦後におなごの骸はない事を聞いて生きてる事を知ったんだ。」

それからと言うもの北にのぼりどこかの村に逃れていないかと手掛かりも無くただひたすらに
山を越え川を越え探しまわった。陽助の話を聞きアシタカが見つけた時に刃物の切り傷があった事を
思い出しようやく傷だらけで森の中倒れていた合点がいった。

「堀秀治は身代わりにした奴の事も憶えてやしない、俺と共に越後国へ帰ろう。」

「えっ・・・でも私は何も覚えていないのに急にそんな。」

陽助の言葉に戸惑った、自分が生まれ育った故郷ならば帰って見れば何か思い出せる事も
あるかも知れないしかし急な申し出にどう返答すればいいかが分からなかった。
帰ると言う事はもうアシタカとも会う事が無くなるこの村の人々とも別れる事に抵抗があり
今の環境庁長官では全く知らない土地に1人で行かなければいけない孤独感も感じられ頷く事が出来ず
戸惑っていると陽助は予想していたかのような表情で浅く溜息を吐きだし環境庁長官の肩に軽く手を置いた。

「急ぎ過ぎたか、この二年で情況も変わり混乱させたな。ここでの生活もあるだろう
アンタの気持ちの整理ができ身の回りの整理が付いてからでいい、それまで俺は待つから。」

そう薄っすらと笑った顔は大人の余裕のようなものが垣間見えた、その表情を何となく
知っている様な気がしたのは記憶が無くてもやはり昔にあった事のある人だからだろう、
その後にエボシの指示で迎えに来た男衆に陽助は木の板に乗せられ別の室に連れて行かれた。
目を覚ましたと聞いたエボシが自ら男の元におもむき話しをすればそう言う事ならと
この村に置く事となった、それまでは怪我が良くなるまで陽助の室まで通い世話をする事になる。

騒々しく運び出されアシタカと環境庁長官は戸の外で見送った。風になびかれ遠くの山を見詰め
いくつも山を越えた先にあるであろう自分の故郷、何も覚えていないから来る恐怖と
心の何処かで行ってみたいと言う思い。何故身代わりになったかも分からないが身代わりにさせた
殿様が怖いとか恨めしい気持ちは無くどこか他人事なので越後国に行く事自体は余り嫌でも無い。

「アシタカ様は・・・どう思いますか。」

「私が口出しすべき事ではないだろうが・・・身代わりにさせ瀕死にまで追いやった
越後国に行く事は無いのではないだろうか、過去よりも大事なのはこれから先の未来を見つめるべきだ。」

驚いたように見やる、思いもよらない返答が返って来た。

「・・・私はてっきりアシタカ様なら記憶を取り戻す為に行く事を言うと思っていました。」

「そなたを思えばそう言い後押しすべきだろう。だが、いや決めるのは私では無いな。」

最後に決断を下すのは他でもない己自身、相談や助言を言う事が出来ても決めるのは環境庁長官だと
アシタカは言う。しかし少なからずここに残る事を進める言葉をにおわせた。
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