もののけ姫

□不易流行
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「旦那ぁ、こいつらワシ等を帰さねぇ気なんすよ!どんどん増えてやすぜぇ!」

その男が言うとおりコダマは何処から来たのかわらわらと数を増していく、
その行列は一本道のようにどこかに向かって行く、コダマはどこに連れて行こうとするのか
分からないが自然とコダマと同じ方に足を向けていた、立ち止まったままのアシタカの
横をコダマが真似を楽しむかのように同じように他のコダマを背負い歩いて行く、そんな姿を
横目で見て無邪気に思えた。息を整えるとまたアシタカはゆっくりと歩き出す。
するとコダマ達は一本の大きな大木の中に根を伝い入っていく。

「お前達の母親か?りっぱな木だ。」

巨大な大木を見上げれば先程入って行ったコダマ達が笑っているようにカタカタと
音を鳴らしている。気弱な男は怯えながら木を見ている余りに大きな木に感嘆した
環境庁長官は横を通りながら見上げていた。するとその大きな木を通り越すと広い空間に出て来た、
所々は澄んだ水溜りが出来ていて苔を生やした木々が何百年と昔からたたずんでいたような
場所だった。アシタカが不意に足元に目を向けると大きな犬の足跡と人の足跡が残されていた。

「あの少女と山犬の足跡だ、ここは彼らの縄張りか」

「旦那こんどこそやばいですよ、ここはあの世の入口だぁ」

「そうだな、ちょっと休もう。」

足元の苔が誰かに踏まれているのを見るとアシタカは何処か嬉しそうに呟いた。
男は見た事ない神聖な場所に怯えているここがシシ神の森だから余計にそう思ってしまうのだろう
だが、アシタカはずっと怯えている男にそんな事は無いだろうと言う意味もあるのか
その事には触れずに背負っていた患者をゆっくりと下ろして泉の方に歩いて行く。
その後を環境庁長官も付いて行く、男はいまだにヤックルの背で挙動不審に周りに怯えながら見ていた
巾着からお椀を取り出して泉でゆすぐ、ついて来た環境庁長官は隣にしゃがんで何を言うでもなく
泉を見下ろす。泉は透き通り底の土までもが見える程の透明さ、木漏れ日を反射させているのを
見ていると本当に別の空間に迷い込んで来た感覚。

ただ隣にいるだけでは可笑しい事かも知れないと話しかける言葉を探した、アシタカはそんな事を
気にしてはいないようだったが環境庁長官はアシタカの先程の独り言が何なのか分からず胸に
引っ掛かっていた、多くは語らないと知っていてもだからと言ってそんな事を聞く事は出来ない。

1人で物音を確かめに行った時に何かあったのは何となく分かった。それが何だったのかなんて
一々聞き出すなんて差し出がましい事だと考えている、あれこれと詮索して不快にはさせたく無く
その事を口に出す事は出来ずに不意に目の前をひらひらと舞う青い蝶が目に映る。

「アシタカ様、綺麗な蝶が飛んでます・・・この蝶は初めて見ました。」

「そうだな、この地は人が触れず自然のままだからだろう。」

ひらひら舞う蝶を目で追って行くと一ヶ所の石の上に何匹もの蝶がとまっていた
そこに花が咲いている訳でもなくただ苔があるだけ、見ていると蝶の隙間から何かの
足跡が一つだけ残されている。

「足跡・・・蹄が三つ、まだ新しい・・・。」

三つの蹄は浅い泉の中にも残されている、アシタカは足跡を付けた獣がまだこの辺りに
いるのではないかと辺りを見回す。ゆっくりと見回していると此処よりもずっと遠くの方で
何かが動く影を見つけはっと息をのんだ。金色に輝く光の中を木々の間から何匹もの動物が
歩いている、じっと黙ってその影をアシタカは見ている。急に黙り何かを見ているのを
知り環境庁長官もアシタカが見ている方に目を向けて見るが何処を見ているのか分からなかった
さっきと変らず同じ風景にしか見えない、目が悪い訳ではないが人並み外れた身体能力がある
アシタカにだけ遠くのものが見えているようだ。

その光景を黙って見ているアシタカの目に一匹だけがこちらに気付いたかのように足を止めた、
光で良く見えないが影ははっきりと映る。幾つもの枝分かれする角をもつ大きな獣が
こちらを見ている、見入るようにアシタカはその獣を見つめると突然アシタカの腕が暴れ出した。
ぐねぐねと動き暴れる腕を片腕で掴み静めようとするが初めて暴れた時よりも言う事を聞かず
苦しめる。

「うっ!・・・ぐっ・・・く!」

「アシタカ様!!」

水をすくったお椀の中は周りに飛び散り押さえてもおさまらない。
ぐっと腕を押さえ隙を見て腕を泉の中に浸す、水の中でどっくん、どっくんと脈打つように
腕が別の生き物のように息衝いている、苦しそうに草を握り締める。
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