もののけ姫

□不易流行
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その男はどうやらシシ神を知っているようだ、シシ神の名を聞いた環境庁長官も近くに寄る。
探しているシシ神の森とはこの近くまで来ているのだろうか、アシタカは先程見た
怪我を追ってはいたが普通の獣では無い山犬の事を思い浮かべた。

「シシ神?大きな山犬か?」

「ちがぁう!もっとおっかねぇ化け物の親玉だっ、はぁあ!消えた!」

コダマは立ち上がり歩き出すとすっと消えてしまった、余り見慣れないコダマに環境庁長官も
驚いているが姿を消してしまった事に目を見張りついついその男と同じように周りを見回す。
するとその男はヤックルの背に座る他のコダマを見つけるとまた大きな声を上げた。
その木の後ろにも何匹も姿を見せる、だがヤックルは暴れる事もしないで穏やかに立っている。

「ヤックルが平気でいる、危険な者は近くにはいない。
すまぬが、そなた達の森を通らせてもらうぞ。」

アシタカは立ち上がりヤックルの背に乗るコダマに言うとまるでふ〜ん、とでも言っているかの
ように背を向けてまた消えてしまう。とても好奇心があるのか珍しいのか他のコダマが
近付いて姿を見せる、その度に男は悲鳴を上げて離れようともがく、あまり暴れると
手当を施した意味がなくなってしまうと環境庁長官は何とか声をかけて落ち着かせようとする。
周りにいるコダマをちらちらとは見ては不思議そうに見るとアシタカが慣れている事に気付く。

「アシタカ様は・・・慣れておいでですね?」

「里でもよく見かけていた、そなたもそうではなかったのか?」

エミシの里の森でもコダマはいたようだ、頻繁に森の中に入っていた少女ならアシタカ同様
何度でも見かけてもおかしくは無いはずだが森の中の事を思い出しても見かけた事を思い出せずに
顎に手を当てて唸る。もう1人の手当をしながら話している時もコダマは遠目で眺める。

「そうか、そなたはいつも下ばかり見ているからな。」

そう言われ確かにいつも上は見ないで草むらの中にある薬草ばかり見ていた、上を向けば
いつでもコダマは木の上にいたんだと言うアシタカ。周りにいるコダマに目を向け
これがいつも木の上から自分の事を見ていたのかと思うと少しだけ複雑の表情を浮かべる。

見慣れていれば環境庁長官は先程悲鳴など上げなかったと呟く、だがコダマを見た悲鳴より
先程からコダマが寄る度に悲鳴を上げている男があんな大声で突然叫ばなかったら
つられて悲鳴は上げなかった。大体の手当を終えてこれからこの森の中を通る為に
意識ある男はヤックルの背に乗せる、その足では山道は歩けないからだ。

「環境庁長官、二人の怪我の具合はどうだ?」

「はい・・・、その人の方は問題はないんですけど・・・」

もう1人の方に目を向ける息は辛うじてしているが大分体中を打撲しているのか
とてもここで出来る持ち合わせではもうこれ以上の治療は出来ない、あまりほっといては
命にかかわる事をアシタカも気付いていた。早速森の中を進む事にする、重傷の男を
アシタカは背負い立ち上がる、環境庁長官はヤックルの手綱を掴み森に入っていくと
ヤックルに乗る男は怖いのだろ入りたくは無くごねていた。森の中を歩いていると
コダマは楽しそうに後を追って付いて来ている、森の中は獣道ばかりで歩き難く段差を登って
ばかりで段々と体力は削られ環境庁長官もアシタカも付いて来るコダマの事は気にはなっていなかったが
その男だけは先程話したコダマが呼ぶ化け物の親玉が気になってしょうがないようだ。

「おねげぇです、戻りましょうよぉ!向こう岸なら道はありやすこの森を抜けるなんて無茶だ。」

「流れが強すぎて渡れない、それにこの怪我人は早くしないと手遅れになるぞ。」

そう言うアシタカは速度を落とさずに歩いて行くが人を背負い山道を行くのは大変な事で
汗を流し段々と削られる体力の中で登っていくと一匹のコダマがアシタカの前を走り
距離が空けば立ち止り来るのを待っているのが目に入った。先頭に立ち手引きでもしているのだろうか。

「道案内をしてくれているのか?迷い込ませる気なのか・・・」

段々と道は険しさを増して行く。もうここは土の道では無く大きな木の根を捩り上っている
ようだ、環境庁長官も山道に息が切れて来たがそれでもヤックルの手綱を引いているだけでまだ
マシな方だ。アシタカはとうとう足を止めた、木の根に片手を置き苦しそうに息を繰り返す。

「アシタカ様っ」

心配そうに駆けよる、休んだ方が良いのだろうこんな場所では休息など取れない事は
分かるがアシタカが倒れてしまわないかと不安に思う。
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