ゼルダの伝説

□ムジュラの仮面
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つい最近からクロックタウンには不吉な噂が流れた。誰が言い出したのか分からない噂が
持ちきりになる、刻のカーニバルの日に人面の月が落ちて来ると言うものだった。
カッと目を見開いた月は日に日にクロックタウンに近付いて来るように大きさを増していく事に
気付き始めた人々は空を見上げては不安に駆られ少しずつ人々は遠くに逃げ出していた。
地響きで大地は揺れて空が赤く染まる、そして住人が避難する今日は噂された刻のカーニバル当日。

町は避難派とカーニバル実行派が対立していたがまじかに迫った月に人々は怯えて町を離れ
今ではクロックタウンに残っているのは少人数しかいない。そして最後の避難の為の馬車には
入り切らないくらいの人達が乗り込むがそこには馬車を見送る司令官の姿が残される。

人が多過ぎて乗り切れなかったと言うのもあったが自分の意思で乗り込む事を断念した。

クロックタウンの東にあるミルクバー・ラッテの屋根に座り込みそこから見える時計台を
ぼんやりと眺めていた。落ちるとされている0:00まではまだ時間が合る。
空の星が無数に輝いているのに赤く染まる大地に本当に噂だけではなく月が落下するのだと
思うと不安で押し潰されそうになるのに何処かで冷静に受け止めていた。

「・・・となり、いいっスか。」

バイトくんの姿に多少驚いたがコクリと頷いた。今夜で終わってしまうと分かっているからか
変に冷静でいられ、どぎまぎしないですんだ。

「何で避難しなかったんっスか?」

「なんだかモタモタしてたから、今更走って逃げても間に合わないと思って。」

「俺も今から逃げた所でどうかなって思って。」

月が落ちて来ると言うのにバイトくんもいつもと変わらない様子で普通に話していた。
ただこうして隣に一緒に座って話しているだけで気が紛れ緊張もしないで話しが出来る、
ちゃんと話しをするのはこれが最初で最後になるだろう。手当をしてくれた時から会えずに
いたが最後に会えた事に静かに喜んだ。

「帽子・・・気に入ってくれたみたいで良かった。」

「え?あ、はい。とても。」

「・・・本当はきみが他の物見ていたの知ってたけどわざと帽子渡したんっスよ。」

急にどうしたのだろうと首を傾げる。何故ワザと他の物を渡したのだろうか
それに驚いたのはこの帽子を渡した娘をバイトくんが覚えていた事だった、司令官はてっきり
気付いているのは自分1人だと思っていたのだから。

「どうして・・・?」

「その帽子の方が似合うと思ったから。それに俺、ずっと前からきみの事知ってたけど
きみは俺の事知らなかった。」

初めてバイトくんの存在に気付く前から夜にもお店には寄っていた。きっとその時から
バイトくんはいたのだろう、しかしなぜお客の1人である司令官に気付いていたのだろうか
バイトくんの性格からでは仕事には不真面目でめんどくさい事が嫌いそうなのにわざわざ
お客の顔を覚えているとは思えない。そんな事を考えれば思いあがっていると自分に
言い聞かせても心臓が大きく脈打つ。

「顔良く見えないから帽子取らない?」

「・・・え、それは、無理です。」

帽子を外して見ないかと言われただけで司令官は困ったようにごねる。
帽子の端を両端から掴むと深く被るように引っ張った。

「私・・・耳が皆と違うんです、長くなくて短いからいつも帽子で隠していて・・・。」

病気でも無く切られた訳でもない生まれつきだった、両親もごく普通の親だったが
原因不明で他と違うと言う事は居心地のいいものでもなく他界してしまった両親を前の村に
残してこの事を知らない町に逃げるようにこのクロックタウンに移住してきた。

「ここには俺しかいない、笑ったりしないよ。見せて?」

いつも窓から眺めていた無表情では無くどこか優しい表情にこれから月が落ちて来る
なんて事も忘れてしまうほどに顔が火照った。それに今日で最後なら隠す必要もないと
最期の日くらいは本当の自分でいようとおずおずと帽子を取った。

「変なんかじゃない、丸くて・・・かわいい。」

バイトくんが言い終わった直後に時計台から幾つもの花火が上がった。天へと上がり
色取り取りに綺麗な花を咲かせる、花火が打ち上がる破裂音が響き渡った。
月は落ちる速度を速め大地は立っていられない程に揺さぶられる、これで終わりだと
思うと恐怖からか悲しみからか涙がこぼれ落ちる。震える司令官を抱き寄せるとバイトくんは
力強く抱きしめた、しがみ付くように抱きしめ返し声を殺し涙を流していると何処からか
ズシーン、ズシーンと地響きが聞こえて来る、4人の大きな巨人が現れると落ちて来る月を
受け止める姿を最後に気を失ってしまった。そして朝日の光に目を覚ますと空には月は無く
クロックタウンも無事な事で避難した人々が少しずつ帰って来る、何事も無かったかのように
町は活気を取り戻しカーニバルの日から数日後にバイトくんと司令官が一緒にいる姿が合った。
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