夏の風物詩

□朱いモノ
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「朱い仏像様」

これは、祖父の見舞いに行っていた帰りの話です。

祖父が危篤でもう寝たきりになって、週末になると帰っていた時期でした。
毎週、毎週、3時間かけて、車で長崎に通っていました。
母は、祖父の看病に長崎に帰郷しており、私達家族は母を長崎に置いて帰っていました。


その帰り道、夜遅くに海沿いのハイウェイを車で走っていると朱いものが見えました。
最初は、その朱いのが何なのか解りませんでした。
徐々に車が朱いのに近付いて行くとそれが、大きな前掛けと解りました。
そして、海の中に堂々とそびえ立つ朱色の前掛けをした仏像があったのです。
岩山の真ん中に波を受けながら、奉ってありました。
私は凝視しながら、通り過ぎるまで眺めていました。
私はハッとして、隣にいる姉へ

「姉さん、見た?でっかいお地蔵さんがいたよ!」

と言いました。

「はっ?」

姉は何を言っているんだ?と言わんばかりの冷たい返事でした。
一緒にいた兄も父も誰も見ていないと言われました。
しかも、父に、

「ずっとこの道を通っているが、そんなものは、見たことない。」

と言われる始末。

私はそれでも、見たんだ〜!と食い下がりました。
すると皆は、

「じゃあ、来週末、見てやろうじゃないか。」

ということになりました。
私は、場所を把握していたので、

「次の通りに御地蔵さんがあるんだよ!?」

と皆に言いました。
するとそこにあったのは、朱くそびえ立つ船の目印……灯台でした。

その場、笑い飛ばされて終わりました。
私は狐にでも、摘まれた気分でした。
今にして、思えば、不可思議ことはありました。
暗闇の中で仏像は、見えていたからです。
見えるはずが、無いのに……。
アレは元から、朱い灯台でした。
勘違いなのか、それとも、幻視してしまったのかは、わかりませんが…。
一時は、まだ、仏像があるのでは無いかと探していましたが、見ることはありませんでした。

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