夏の風物詩

□バイト先で…
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「電話の相手」

これは姉が実際に体験したお話です。

箱付きの週刊誌をご存知でしょうか?
本屋泣かせの置場に困る週刊誌・○アゴさん。
本屋でバイトをしていた姉は、置場に困るし、場所は取るし、でいつも頭を抱えていたそうです。
そんな時、また、新しい企画でドールハウスを作るキットが売り出されました。
(置場に困るのに…)
そう思っていた矢先に、意気揚々とやって来る女性のお客さんが現れました。
40台くらいの女性客でした。
彼女はドールハウスのキットを手に取るとカウンターへ並びました。
調度、姉はレジにいたので、女性の接客をしていると

「うふふっ、これ、出るのを待っていたのよ。」

とニコニコと笑顔で言われました。
姉はその素敵な笑顔に何だか、心が温かくなったそうです。
苦労して、本を並べた甲斐が、あったなと癒される瞬間でした。
接客をする時にお客様の嬉しいそうな笑顔を見るのが、姉にとって接客業にやり甲斐を感じる瞬間なのだそうです。

「これを毎週、取り置きして欲しいんだけど、できるかしら?」
「それでしたら、定期購読しませんか?」

姉は女性客に言われてすぐに答えました。

「定期購読?」
「はい。週刊誌などをお客様専用に取り置きしておく事です。
こちらの用紙にお名前と住所、電話先を書いて頂くだけで宜しいので。」
「まあ、便利ね。それ、お願いするわ。」

女性客は姉に薦められるまま、定期購読をしてくれました。
毎号が出る度に嬉しいそうに女性客は、買いに着てくれました。
姉を見かけると今、世間話をしていくくらいに仲良くなっていました。

「最近、何だか、身体が怠くて…。でも、これを作るのが楽しみで買いに来ちゃったわ。」

女性客はいつも笑顔で話してくれました。

それから、一月くらい、女性客は現れませんでした。
姉は流石にドールハウスのキットが貯まったので、女性客に電話をかけることにしました。

「はい、もしもし」
「○○書店の○ですが、お客様注文のドールハウスがそろそろ貯まられましたので、ご一報させて戴きました。」
「ドールハウスね!あら!とても気になっていたの。有難う、すぐに取りに行きますから。」
「では、お待ちしております。」

姉は女性客(本人)が出たんだと確信しました。
女性客は、声を弾ませ、今すぐ買いに来る様子だったので姉は、待っていました。

ところが、待てど暮らせど、あの女性客は、現れません。
それから、数日後、一本の電話がかかって着ました。

「ドールハウスを頼んでいる○ですが、今から、取りに行きますんで。」

男性の野太い声が電話先から、しました。
名前は、あの女性客と同じでした。
きっと旦那さんかな?と思いつつ、

「はい、お待ちしてます。」

と姉は答えました。
しばらくして、一人の男性が現れました。
男性は姉のいるレジへ来ると

「ドールハウスのキットを頼んでいた者ですが。」

と言われたので、電話をして来た方ねと応対しました。

「はい、お待ちしてました。こちらですね?」

姉はドールハウスのキットを見せながら、言った。

「そうそう、それ!
家内が楽しみにしていてな〜。
早く作りたいって言ってきかないんだよ。」

「そうですよね。
先日、ご自宅にお電話させて戴いた時もすぐにでも、奥様が取りにいらっしゃる勢いでしたもの。」

姉が旦那さんに言うと彼はキョトンとした顔をして、

「え?いつ頃?」

と訪ねられました。

「三日前くらいですが…」

姉は、旦那さんの様子に何かおかしいことを言ったのだろうかと不安に思いました。

「そんな筈は無いんだけどな…。
家内は、一ヶ月前から、入院しているんだ。」

彼は怪訝な顔をして言いました。

「…えっ!?」

姉は暫し、言葉を失いました。

「末期癌で、もう自宅にも、帰れなくてな…。」

旦那さんは、姉に奥さんの話をしてくれました。

じゃあ、あの時に電話を取ったのは、誰だったんだろうか?
明らかに本人としか思えない会話だったのに…。
姉はそれ以上、何も言えませんでした。

姉は彼女が買い物へ来た日、「最近、身体が怠くて…」と言って帰って行ったのを思い出しました。

それから、女性客の旦那さんや娘さんがドールハウスのキットを買いに来ました。
暫く、経ってから、旦那さんが現れ、

「これを止めたいんだが…」

と切り出しました。
その一言に姉は悟り、

「そうですか。後少しでしたのに…残念です。」

と言いました。

「ああ、最期まで、家内も作りたがっていたよ。
痛い、痛い、言いながらも作っててな。
娘に作らないか?って聴いたら、無理と断られてしまってね。」

旦那さんは、姉にそう話して去って行きました。
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