夏の風物詩

□壊せないトイレ
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姉が小学生のサマーキャンプで実際に体験した話です。

「此処は絶対に使うんじゃない!!」

学校で自由参加のサマーキャンプに来ていた子供たちに向かって、先生たちは、口を酸っぱくして言った。
そこは、キャンプ場とその上にあるシャワールームとの間にある板張りのトイレらしかった。
妙な所にポツンとあるトイレなので、あまり分からない。
立て札には、『此処は倉庫です。絶対に入らないで下さい。』と書いてあった。
「先生、倉庫って書いてありますけど?」
一人の生徒がすかさず、突っ込むと
「良いから、さっさっと行きなさい!」
と先生は、自称・トイレの前に立って急かした。
悪戯好きの生徒たちが、うっかり、近付かないように…。
キャンプ場に着いてから、あのトイレについて先生は話し始めた。

むかし、あのトイレは、シャワールームだったのだが、誰もいないのに悲鳴が上がり、使用者は必ず、死ぬという怪現象が起こったのだ。
管理人は、それならと言わんばかりに、シャワールームを壊して、少し離れた場所に簡素なトイレを造った。

ところが、造ったばかりのトイレでも、女性の悲鳴が上がり、使用者が死ぬという怪現象が起こった。
流石にマズイと思った管理人は、トイレを壊すように業者へ頼んだ。

しかし、業者がトイレを壊そうとする度に電動機具が全部、壊れてしまい、取り壊す事が出来なかった。
そういう事が何回も起きたので、管理人は板張りのトイレだし、自分で壊せるだろうと思って壊しに出かけた。
しかし、管理人は、その日を最期に帰らぬ人となってしまった。
一緒に壊しへ行った者の話によるとトイレを破壊しようと戸口に立った時、青白く長い手が管理人を掴み、中へと引きずり込んだ。
そして、トイレのドアを開けると変わり果てた姿の管理人がトイレにいたのだという…。

それどころか、トイレを使用禁止にしようと錠前を附けようとしただけで中に引きずり込まれてしまうのだ。
だから、立て札しか、付けれず、人が近付かないように倉庫と偽って書いていたのだと語った。

関係者は板張りで出来たトイレだから、いつかは風化して、壊れるだろうと踏んでいた。
ところが、立て札に苔が生え、寂れていっても、トイレの板張りは、いつまでも、綺麗なままで風化せず、傾く気配も無かった。
誰かが、掃除している訳でも無い。
まるで、そのトイレだけが、別の異空間であるが如く、風化していないというのだ。

むかし、トイレの付近で殺されて埋められた場所だから、その人の怨念だとか諸説は、いろいろとあるらしい。
1番、有力なのが、トイレの場所には、むかし、井戸があり、地下水を汲んで使っていたという説だった。
最初のシャワールームも地下水を使用していたし、トイレもそれを使用していたのだから…。

きっと、今もトイレは、綺麗なままで…あるだろう…。
姉はそう語っていた。

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