夏の風物詩

□水族館
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これは、兄が小さい時の話です。

母の実家に遊びへ来ていた時のことでした。

その年は水害が酷く母の実家付近で大洪水が起きて多くの人が流され、亡くなっていたそうでした。

水害が落ち着いて、両親は幼い兄を連れ、水族館に訪れたそうです。

その水族館は、大洪水にも、流されず、大丈夫だったそうです。

しかし、水族館付近にある海辺では、洪水で流された人達が打ち上げられていたそうでした。

水族館に訪れた両親はさて、中へ入ろうかとした瞬間、兄が、足を止めて動かなくなったそうです。

母が兄の手を引いて、入ろうと促すのですが、どうしても、入りたがらなかったそうです。

それどころか、母の手を引いて、水族館の外側へ歩き出したそうです。

ものすごい勢いで引っ張るので、母は、兄に連れられるまま、そちらに行ったそうでした。

水族館の外側には、崖がありました。

その真下には、海が広がっていました。

兄は崖の下に広がる海の一点をジイッと見つめていたそうです。

母は不思議に思いながら、兄の視線の先を一緒に見たそうでした。

そこには、プカプカッと浮かぶ花束が浮いていたそうです。

「あそこに男の子がいるよ。」

兄はそこで花束を指しながら、言ったらしいのです。

母は、花束しかないのを再度、確認して、

「行きましょう。」

と兄に言ったらしいのですが、暫く、彼は動かず、海を見ていたそうです。

母は一刻も早くその場から、離れたかったそうですが、兄が強情に居座ったので、そのまま、水族館に入ることなく、帰ったそうでした。

後日、母が話を聞いたところ、兄が見ていた場所で本当に男の子が洪水で流されて遺体が上がったところだったそうです。

そして、その花束は、男の子に供えられた物だったそうです…。
 

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