◆雛鳥◆


□#13
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#13








池田屋から屯所に戻ったのは、翌日だった。
夜のうちに帰るのは、闇討ちの危険がある為、
取り逃した浪士を捕縛しに向かった者以外は、日が昇るまで待機していたのだ。
屯所に戻る途中には、何処からか聞きつけてきたのか、見物人で溢れかえっていた。


―――屯所につき、人手が足りない状態の新選組。
負傷者の傷の手当を、千鶴と私にも手伝って欲しいと近藤さんに頼まれた。
千鶴は、医者の娘というだけあって、手際がいい。
肝心の私は、生々しい傷跡に思わず目を逸らし、体を震わせる。

・・・私は何も守れなかった。

その事実は、斎藤さんに慰めてもらった直ぐ後に知った。
私がしたのは、自己満足の域だったのだ。
平助に注意して満足し、風間さんと沖田総司の戦闘に割って入って邪魔をして・・・
・・・・・・・沖田総司を傷つけた。
そして平助も結局、額をざっくりとやられてしまった。
更には、新選組に死者が一人でた。


・・・新選組を守る?
私は新選組を守りたかったんじゃない!
私は保身を守りたかっただけだっ!!


唇を強く噛み締めるあまり、ぷつりと皮が切れ血が出てしまう。





「森草・・・お前は手伝わなくていい。部屋に下がってろ」

「土方さん・・・」




何故、土方さんは私を手伝わせてくれないのだろう。

人手は全然足りていないのに。
このまま・・・本当に何もしないままなんて、私は出来ない。




「大丈夫です!私・・・やれますから」

「やれる?そんな風にみっともなく身体震わせてか?」

「―――っ」

「・・・そんな風に震えてる奴に、手当されても迷惑なだけだ。
さっさと、部屋に行け」





・・・そう、冷たく言い捨てられ、私はその場を追い出されてしまう。
だけど、部屋を追い出されても、しつこく私は障子の前で粘っていた。

すると、土方さんの声が中から聞こえてきた。



「ちょっとすまねぇが、おまえ、平助ん所に行って様子を見てきてくれ」



その言葉を聞いて、私は人が出てくると思い、慌てた。
土方さんに「部屋に戻っていろ」と言われたのに、
自室に戻らず私がこの部屋の前に突っ立ってたら、間違いなく雷が落ちる。

汗で滑る足を横に向け、急いで立ち去ろうとしたその時――――




「は、はい!他に・・・何か御用はありますか?」

「いや、特にない。
平助の様子見て、大丈夫そうだったらそのまま自室に戻っていいぞ」




土方さんに・・・頼み事をされたの、千鶴だったんだ。
あぁ、そうか。
土方さんは千鶴を頼りにしてるんだ・・・。

そう、思ったら・・・・・・居た堪れなくなって、
私は喉奥がきゅっと締まるのを感じながら、その場を去った。




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