◆雛鳥◆


□#5
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#5








目を開ければ、そこには自分の部屋とは違う天井。
頭は覚醒しきってはいないものの、
私の身に起きたことだけは忘れられはしなかった。





「・・・もう帰れないのかな」





視界を塞げば、戻れるかも。
そんな子供染みたことを考え、私は腕で目をおおってみた。
・・・でも実際に、元の時代に戻れるわけもなく。
私は唯唯、声を押し殺して頭を抱えるしかなかった。

気持ちに一区切りがついて、同室の千鶴の姿を確認してみる。
角には丁寧に畳まれた布団が置いてあり、彼女が既に起床したことをしった。
それを見た私は、慌てて体を起こし辺りの日の加減をみる。
・・・まだ、朝だ。
寝過ごしたわけじゃないとわかり、
ほっ、と小さく息を吐いた。



昨日、千鶴の部屋に通されてからは、土方さんのお呼びはかからなかった。
自身としては、彼等がこれから自分にどう判断を下すのかと、
ビクビクしてたというのに。

男としてここに置いてもらうのは、無理だろうな。
あの時、私を捕えた時にいた平隊士に、私が女だってことはバレてしまってるし。
・・・はぁ。

なんだか、気が重い。
私はのろのろと、自分の布団を畳み始めた。






「森草、入るぞ」





入ってきたのは、斎藤さんだった。
食事を持ってきてくれたらしい。
私はそれを尻目で見るだけ。
斎藤さんは、私の近くに食事を置いて食べるように言った。





「申し訳ないですが・・・要りません」

「・・・何故だ」

「とても、食事をする気分にはなれないんです。
お腹も空いてないですし・・・」





私は用意されたご飯を眺めながら、
ぼんやりとした。
昨日も用意された食事を、私は口につけなかった。
別に食べ物に不満があったわけじゃない。

でも、胃に入れたくないんだ。
何も。
何も・・・見たくないし、聞きたくないし、考えたくない。
自分の・・・これからなんて知りたくない。


斎藤さんは「そうか」とだけ言って、
食事を下げ行ってしまった。
私はそのまま動かず、同じ格好でいた。

すると暫くして、先程食事を下げたはずの斎藤さんが戻ってくる。
その手には、お膳が。
何で?
私はそんな思いで、彼の方に視線を向けた。





「やはり・・・何も食さずに過ごすのは良くない。
故に、これなら少しは入るかと」




私の目がよほど疑心に満ちていたのか、少し戸惑った声を見せる。
そして、彼は私の前にお膳を置いた。
私は首を傾げて、お膳の中身を覗いてみる。





「お・・かゆ?」

「お粥ならば、胃に優しいはずだ。
昨日から、何も食していないからな」

「斎藤さん・・・」




真っ白なお粥から、湯気が立ち上る。
態々、私のために作ってくれたのかな?
誰が?・・・斎藤さんが?
私の胸は、この立ち上る湯気のように熱が込み上げ蒸気した。
・・・嬉しい。
人の優しさに飢えているのかな。
ちょっとした優しさが、彼らの心遣いが・・・心に響いてきて心地好い。





「斎藤さんが・・・これを?」

「・・・いいから、早く食え」

「―――はい」




私は微笑んで返事をする。
そんな私に驚いたのか、斎藤さんの無表情の顔が固まっていた。
それが面白くて、私は小さく笑ってしまう。
そんな反応をしてしまった自分が恥ずかしくて、私は誤魔化すようにお粥を口に入れた。
味は薄いけど、気持ちいい温かさが胃に落ちていく・・・。





「美味しいです、とても。
・・・有難うございます」

「礼には及ばん」

「くすくす、やっぱり斎藤さんが作ってくれたんですね」

「・・・」




今度こそ、斎藤さんは無口になってしまった。
そんな彼に気にもせず、私はニコニコとお粥を全部平らげてしまうのだった。




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