◆雛鳥◆
□#4
1ページ/5ページ
#4
一時の命の延長を得られたとはいえ、
私の暗鬱とした気分までは、晴れさせてはくれない。
それどころか、私の怖畏の心は増すばかり・・・。
和風家屋の廊下を、跛をひきながら私はゆっくりと歩いている。
目の前で揺れる、高く結い上げられた髪を、私は物悲しい気持ちで目を細め見ていた。
「未世・・・?」
私の視線に気がついたのか、平助は不思議そうに後ろを振り返る。
ハッと我に返った私は、気まずくて目を伏せた。
「どうかしたのか?」
こんな些細なことでも心配してくれるなんて、どうしてそこまで優しいのだろう。
私は怪しくて、可笑しな頭のイカれた人間な筈なのに。
「オレ、さ・・・お前が未来から来たって話信じるよ」
「―――え」
耳に心地いい音でそっと、彼は静かに呟いた。
そんな言葉が紡がれるとは思っていなかったので、
私は少しばかり目を見開く。
「・・・なんで、なんで?」
「未世?」
「私、あんなに迷惑かけたのに・・・
あんな酷い言葉を、吐いたのに!
どうしてそんなに優しくしてくれるの!?
私・・・そこまでしてもらえる人間じゃないのに!」
私の声は聞きづらいぐらいに震えてた。
心配して更には自分を信じると言ってくれた人に、こんな台詞を吐くなんて、
それこそ礼儀知らずだ・・・。
でも、だからといって、彼の気持ちが理解できない。
私は・・・力で捩じ伏せ人を斬る武士は人じゃない、とまで言ったのに。
自分のことしか考えてないような、
そんな醜い自分なのに。
それなのに―――どうして?
「お前、さ・・・俺達のこと『人じゃない』って言ったこと気にしてんだろ?」
「・・・っ」
気にしない筈ないじゃないか。
彼等の背負うものの大きさも知らずに、
あんな最低な言葉を吐いたというのに。
私は口をぎゅっと結んだ。
「そのことはさ、もう気にしなくていいって。
オレも左之さんも、気にしてないし。
・・・それよりも、オレお前に謝んなきゃいけないことがある・・・」
彼は語尾を窄ませ、表情を暗くさせていく。
.