◆雛鳥◆


□#3
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#3









沖田総司に連れられ、誰もいない空洞の部屋に連れてこられた私。
彼は私を連れていく間、他愛もない質問を幾つか投げかけてきたけれど、
私は曖昧に言葉を返すことしかしなかった。

何ていうか・・・この人のこと苦手。

部屋に入ると、先程まで笑顔を浮かべていた沖田総司の顔が一変した。
彼は顔を私に近づけ(こういうところも苦手だ)、
真剣な表情を見せる。





「さっきは庇ってあげたけど、勘違いしないでよね。
君が少しでも変な動きを見せたら、僕が斬るから」





背筋がゾッとする声音だった。
顔が近くにあるために、彼の恐ろしい一面がよく見えてしまう。
そして、畏怖感も一入だ。





「・・・じゃ、大人しく待っててね」





パッと顔を離し、さっさとここを出ていく沖田総司。
彼がいなくなるのと同時、どっと全身の力が抜け私は崩れ落ちた。
冷や汗がじんわりと浮かんでいるのが分かってしまう。
それに・・・怪我した足も限界だった。
その足の裏を見ると、真新しい筈の布は真っ赤に染め上げられている。





「・・・結構深かったんだな」




ぼそっと呟き、私は足を伸ばした。
幸いにも、足までは拘束されていなかったので自由に動かすことができる。
また・・・独りだ。
ゆっくりと周りを見渡してみるものの、
やはり自分とは別次元の世界なんだな、と思わされてしまう。

空気が違う。
臭いが違う。
世界の色が違う・・・。

別に和室が珍しいわけじゃなかった。
ただ単に、自分はここにいるべき人間じゃないとつくづく思い知っただけ。

優しくされたり、突き放されたり。
気にかけてくれたり、そっけなくされたり。
疑ったり、助けてくれたり・・・。
そんな風に、私に接してくれる彼らと私は相容れることはできない。
だって、私はそんな風にできないから。

未来を知り、彼らのことを知っている私に、『自然に』沸き起こってくる感情があるのかどうかも些か疑問だ。
『知っている』ってことは、感情も用意されてしまっているようなもの。
彼らが命懸けで戦うものの、無意味さを『知っている』。
・・・武士の時代は終わる。
でも、だからといって私にはどうすることもできない。
例え彼らに新選組の行く末を告げたとしても、彼らは戦うことをやめないだろうから。

だけど・・・もう『別の世界』の話じゃない。
彼らは生きていて、存在している。
そして私もここにいる。
実際に会ってしまって、私の『世界』は変わった。
ここは『現実の世界』。
夢ならどんなにいいだろうか。
でも、起きたら夢でしたということは、これからも起きないだろう。

私の気持ちはどん底だ。
未来で安息の日々を送ってきた私に、
この時代を生き抜くことはできるの?



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