◆雛鳥◆


□#2
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#2














『平助』に背負われながら、
互いに気まずさを感じつつ気が付けばもう屯所前だった。
因みに、『平助』に負ぶさる前に、私の手を拘束していた縄は外してもらった。
門の前で下ろしてもらい、ようやく開放される。
空は白み始めていた。

う〜ん、疲れた。
ほら、だってさ、ぎゅうってしがみつくなんて出来ないじゃん。
知り合ったばっかしの人にさ(一方的に私は知ってるけど)。
そんなわけで、それなりに力の入る体制をしてたわけだよ。





「あの、本当にありがとうございます『平助』さん」




私は、ここまで背負ってくれた彼に感謝を述べる。
すると、当の本人変な顔をしている。
なぜだろう、と彼の隣にいる『左之さん』を見る。
こちらも変な顔だ。





「・・・ごめんなさい、大変でしたよね。私に付き合うの・・・・」




申し訳なさで、胸が詰まる思いだ。
仕方がなかったとはいえ、私をここまで背負ってくれるのはすごく大変だったことだろう。
付き合ってくれた『左之さん』も。
なのにお礼だけしか言えないなんて・・・情けなかったかな。
でも、他に出来ることないし・・・。

そんなことを思っていると、『平助』は慌てて「違う」と首を振った。




「いや・・・お前がさ、オレのこと『平助さん』、なんて呼ぶから吃驚しちまって。」



困ったように笑う『平助』。
ここで私は、自分の軽々しさに気がついた。
いくらなんでも、会ったばかりの人間に名前で呼ばれたらいい気はしないだろう。
なのに私は、当然のごとく名前で呼んでしまった。
・・・流石に『さん』は付けたとはいえ。






「―――っ!!ご、ごめんなさい!馴れ馴れしすぎましたよね。
その、『左之さん』が『平助』と呼んでいるのを聞いてつい・・・・」







――――っておい、私!!
言ってるそばから『左之さん』まで名前で呼んでるじゃないか!

私が一人困って、慌てふためいていると、急に二人は笑い出した。
突然の笑い声に、困り顔のまま彼らを見つめる。





「ハハハ、わりぃわりぃ。お前の慌てぶりが面白くって、さ。」




未だに笑いがこみ上げてくるのか、腹を抱えたままの『平助』。
ちょっと・・・失礼じゃない?
こっちは、真剣に悩んだのに。




「平助、笑いすぎだ・・・。
まぁ、気にすることはねぇって。
そういえばまだ、お前の名前聞いてなかったな。
なんて言うんだ?」

「わたし、ですか?
・・・森草・未世っていいます。」

「ふぅん・・・未世っていうのか。変わってんな。」




左之さんは、私に気遣いながら名前を訊ねてきた。
私がそれに答えると、ようやく笑いの治まった平助が(私の心の中では、平助なのだ)気のないような声で答える。
・・・平助自身が私のことを、名前で呼んできたことはまぁ・・・気にしないでおこう。

そういえば、苗字って武士以外名乗っちゃいけないんだったっけ・・・?
まぁ、いいか。
この時代の人間じゃないし。



ようやく落ち着きを取り戻し、改まって屯所の門を眺める。
あぁ、本物なんだな、って感じた。
なんていうか・・・息吹を感じるっていうか。
やっぱり、これって現実・・・なんだな。
そう思うと何だか息苦しくなって、思わず顔を下げる。




「おい、何やってんだ?早く着いてこいよ。」




中々動かない私に痺れを切らしたのか、先を進んでいる平助が私を呼んだ。
その声に従うように、
私は得体のしれない不安と共に、中へと足を踏み入れる。





「さてと・・・俺は土方さんを呼びに行くとするか。
多分、蔵の方にいるだろうからな」

「・・・・蔵ですか?」




左之さんの言葉に、私は首を傾げた。
こんな朝早くから、蔵に何の用があるというのだろう。




「ん・・・・?まぁな。さっき捕えた奴らに『色々』と、な」

 



『色々』、がなんなのか分かりすぎていて、思わず息が止まる。

――――拷問だ――――
・・・私も、あんな目にあわされるのだろうか?

色々なことがありすぎていて忘れてたけど、私がいる処はこういう処なんだ。
そして、私はあくまで不審人物。
『彼等』に歓迎されるためにここに来たんじゃない・・・。





「未世?」





私の顔色が悪いのが、分かったのだろう。
左之さんは、私の頭にぽんっと手を置いた。






「なぁに、女のお前に、いくら土方さんでも酷いことはしねぇから安心しろ。」





私の不安を、少しでも軽くしようとしてくれる彼。
でもね、私は可笑しな格好をした不審人物。
見る人から見れば、私は気狂いなんじゃないだろうか。
・・・そんな人間を、丁重に扱ってくれるとは思えない。
それこそ―――痛い目を見させられるんじゃないのかな。







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