◆雛鳥◆
□#14
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#14
勇気―――その言葉は私に一番不釣合な言葉だと、私は思う。
「それでも・・・それを、逃げるための言い訳にはしない」
と、自分に呟いてみる。
―――只今、廊下を歩行中。
斎藤さんに勇気をもらった私は、
いい加減避けることのできない『ある問題』と対面しようと決意した。
そして私は、ある部屋の前で立ち止まる。
『ある問題』とは・・・言わずもがな、沖田総司のこと。
―――さぁ、自分が招いた『弱さから来た結果』と立ち向かおう。
・・・とはいえ、私は声の出し方を忘れたみたいだ。
喉は張り付くし、自分の意思を無視して、口は呼吸音しか漏らしはしない。
手はガチガチに震え、夏場だというのに体は凍えている。
私は今、沖田総司の部屋の前に立っている。
・・・大丈夫。
斎藤さんのおかげで勇気も出たし、沖田総司に謝ろう。
そうは思うものの、彼に会うのは怖かった。
緊張で口がかわく。
・・・吐きそうだ。
「・・・僕が出るまで、そうしてるつもり?」
突如、部屋の中から沖田総司の声が聞こえた。
そのせいで、私は自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。
が、彼は一向に部屋から出てこようとはしない。
私は戸惑いながらも、声をかけてみる。
「・・・沖田総司さん、中に入ってもいいですか?」
「入ってこないで。」
冷たく鋭い、拒絶の一言。
戸に手をかけていた私は、思わず手をどけた。
「君に会いたくない。」
その言葉に、私は目の前が真っ暗になった。
震える手を握り、私は必死に涙をこらえる。
ふと私は、池田屋で見た彼の最後の顔を思い出した。
―――傷ついた彼の表情を。
「・・・っきた総司さん」
ごめんなさい。
そう続けていようと思った。
けど私はその言葉を言うのを思いとどまった。
・・・彼が望む言葉は、きっと
謝罪の言葉なんかじゃない。
「沖田総司さん」
「・・・何。」
「私は、あなたが弱いとは思ってません。」
そう、私は彼が強いことを知ってる。
だからこそ、私は、
「・・・だから、気を付けてって言ったこと、
絶対謝りませんから。」
彼が弱いと認めるその言葉を、絶対口にはしてはいけないんだ。
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