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□ただ君だけを、
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今日も城を抜け出して、ここへと来ていた


ただいつもと違うのは今日は独眼竜も一緒に来ているということだった


この場所を知っているのはワシと親しい者だけだ

当然独眼竜も墓の場所を知っていたし、誰の墓なのかも知っているから何も問題はなかった



「……。」


何も言わない独眼竜を後目に墓の前に屈み、手を合わせる


そうすると今まで何も言わなかった独眼竜が口を開いた



「それにしても敵の総大将の墓を作るなんて、アンタも物好きだな。」

「……お前だって真田が死んだら墓ぐらい作るだろう?」


そう言い返せば独眼竜は笑うように「そうだな」とだけ言いワシの近くまで歩ってくる


ワシも立ち上がり独眼竜の方を向けば、真剣な顔をしている独眼竜が視界に入った



「それで、いつまでここに通い続けるつもりなんだ?」

「いつまでと言われてもな……。」


そう言って苦笑すれば独眼竜は顔を顰める


「アンタは天下人だ。アンタがしっかりとこの国を治めねぇとまた乱世に逆戻りだぜ?」

「わかっている。」

「……ならいいんだ。ただ、これだけは忘れんな。」


そう言った独眼竜がいつも以上に真剣な顔をしていたため、思わず固唾を呑む


「アンタは泰平の世を望んで石田を討った。」

「っ!」

「後悔だけはすんなよ。石田が報われねぇ。」



三成の名前が出て、思わず固まってしまう

その瞬間、独眼竜がいつものような人を馬鹿にするような笑みに戻ったため、緊迫した雰囲気が一気に和らいだ



「まぁいい。兎に角、アンタは天下人なんだ。あんまり好き勝手動くなよ。you see?」

「ああ、わかってる。もう少ししたら帰るから先に行っててくれ。」

「OK.じゃあ俺は先に行くぜ。」

いつもの調子でそう言って帰っていった独眼竜を見えなくなるまで見送ると三成の墓の方へと振り返る





独眼竜の言う通り、ワシは後悔していたからここに通っていたのかもしれない


だが独眼竜の言う通り、ワシはいつまでもここに通い続けるべきではないのだろう


ワシがするべきことは三成の墓へと通うことではなく、日ノ本を治めることだ

日ノ本が戦のない、穏やかな世であり続けるために


三成もきっと「ここへ来る暇があるのなら働け」と怒るだろう

ならばワシは日ノ本を治めるために全力を尽くそう


ただ、そうすればワシはここへ次にいつ来れるかわからない

もしかしたらもう来れなくなるかもしれない



だからワシにはどうしても三成に言っておかなければならないことがあった



「三成、ワシがお前を好きという気持ちは嘘ではない。」


自分の気持ちは偽りの笑顔で全て隠してきたが、これだけは唯一偽りのない気持ちだ


「信じてくれとは言わない。」


豊臣を裏切ると同時に、最も大切な三成を裏切ってしまったからな


「ワシの気持ちはいつまでも変わらない。三成が信じれると思えてからもう一度信じてくれればいい。」


ワシはいつまでも待ち続けよう、待つのは昔から得意だからな


「ワシの気持ちは永久に変わらない。今ここで誓ってもいい。」



そう言って墓石に触れば、冷たさが手から伝わってくる

それはまるで最期に触れた三成の体温を思い出させる

それでも墓石に触れたまま、膝を着いた



「三成。ワシは、お前だけを」


三成がここに居ないということはわかってる

なのに三成が近くにいるような気がしたから声に出して言うべきだと思った

ワシが三成に誓う言葉を





「愛し続けよう。」




そう言うと同時に、あの時の三成のように冷たい墓石にキスをした







ただ君だけを、
(愛し続ける)
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