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□君に恋する携帯電話
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携帯を開き、メール作成画面にして三十分以上経つが未だにメールの本文は空白状態だった


宛名には既に『徳川家康』と入っているのだが、どうにも本文を打つことが出来ない


“会いたい”とだけ打って送れば済む話なのだが、そんなのは自分のプライドが許さなかった



途中で家康のために悩んでるなんて時間が勿体無いと思い、送るのをやめようと電源ボタンを押すが、『メールを破棄しますか?』とメッセージが表示された途端に、クリアボタンを押してメール作成画面に戻してしまう



そんなことを繰り返し、時間が三十分以上経ってしまったのだ





時計をみれば九時二十分を過ぎたぐらいだ



「流石にこの時間に呼び出すのは家康だとしても迷惑だろうな」



そう呟き電源ボタンを押し、作成メールを破棄しようとした時だった



「っ!!」


間違って電源ボタンの上にある送信ボタンを押してしまった


急いで電源ボタンを連打したが画面に表示されたのは『メールを送信しました』というメッセージ



送ってしまったと思うと同時に血の気が引いていくのがわかる


空メールなのだが、家康のことだから「なんてメールを送ろうとしたんだ?」
と問い詰めてくるに決まっている


今すぐ携帯をへし折り、電源ボタンの上に送信ボタンの無い携帯に変えたかったが最近変えたばかりだった為そんなことは出来なかった



私の人生が終わったと思い放心状態になっていると、手の中になった携帯が震えた


慌てて画面をみれば着信画面になっていて、名前を確認すれば『徳川家康』と表示されている


切ってしまおうかとも思ったが、すぐに後々面倒なことになると思い、電話を取った



「……はい。」

『三成か?』

「当たり前だ。何か用か?」

『いや、お前からメールが来たから何かあったのかと思ってな。』

「っ、何もない!ただ間違って送ってしまっただけだ!」



やはり聞いてくるかと思った瞬間には勝手に言い訳の言葉が出てきていた



『そうか。……用件はそれだけだったんだ。いきなり電話をかけてすまなかったな。』



そう言った家康はきっと辛そうに笑っているんだろう

そう考えると胸の辺りが痛くなってどうしようもなくなる



私が素直になれないせいで、また傷付けてしまった


そう思った時には「家康!」と名前を呼んでいた



電話からはすぐに『どうした?』と家康の声が聞こえてくる




名前を呼んだのはいいが次の言葉が出てこない


何か言わなければ電話を切られてしまうかもしれないのに、何て言えばいいのか上手く言葉に出来ないのだ



(“会いたい”なんて死んでも言えない。じゃあどうすれば?)


そう思っていると突然『三成』と名前を呼ばれた



突然すぎて思わず携帯を落としそうになるが、なんとか落とさずにすんで「なんだ?」と聞き返す



『今から会いに行ってもいいか?』



そう言われた瞬間に「貴様は何を言っているんだ。斬滅されたいか?」と言いそうになるが、必死に耐える



「……勝手にしろ。」


何とかそう言うと電話からは『わかった。今から行くからな。』と嬉しそうな声が聞こえてくる



早く来いなんて言えない代わりに「来るならさっさとしろ。」と素っ気なく言って電話を切った



その途端に顔が熱くなる感じがして、それを隠すように膝に顔を埋めた








君に恋する携帯電話


会いたい。だから早く来い。
 

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