malicious tale★

□誰よりも俺が1番キミを好き
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俺はどうして堪えている?
痛みも怒りも―俺の身体も感情も、こんなにも正直なのに。俺は…なんでこんな奴らに―。

「オイ、なんだよその目」
「…ッう、っ」

髪を掴んで、顔を強制的に上に向けさせられる。

「ほーら、レイルちゃん?
泣いてごらん。そしたら殴るの
やめてあげるよ〜」
「痛い痛いの〜?
泣いていいよぉー?」

わざとらしい口調と、口元に浮かぶ下卑た笑い。
お前らなんて、大嫌いだ。誰が泣くか。お前らにやられて、泣いてたまるか…!

「あれぇ?可愛いお口から
血が出てるねぇ♪
舐めてあげよっかぁ?」

…っ?!

悍ましいくらいに、厭らしい笑みの男が顔を寄せて来る。このグループのリーダー的な存在であるテッドの、1番の仲間、リーズだ。

押し付けるように壁と長身の間に挟まれて、逃げられない。

「っ―やめ、ろ!」
「アハハッ。やっちゃえばぁ?
リーズ!レイルまじ可愛い〜」

煽るような甲高い笑い声。

ニヤニヤと細めた目のまま近づいてくる、大きな身体。

嘘だ、嘘だ…!
冗談じゃない!!

「リぃ…ズ!やめッ―」
「舐めるだけだろぉ?あ、でも
間違えて口の中まで
舐めちゃうかも!」

「やっ…―ッうぅ」

絶望的な宣告に、ギュッと閉じた瞼から、ツゥと涙が流れた。

「あ、泣いt(ドゴッ!

誰かの声を遮った、鈍い殴打の音。ひどく聞き慣れたその音は、しかし痛みも衝撃も伴わなかった。

「…―?」
うっすらと目を開け、ようやく殴られたのは自分ではないのだ、と認識する。倒れているのは今まで自分を拘束していたリーズ。

ギョッとした感じで後退るテッド達がつくっていた半円の中心に、見知らぬ、男。

最初に見えたのは、漆黒の中の燃え立つ金。それから…ゆっくりとレイルを捕らえる、深淵の瑠璃色。

「楽しそうだね?俺も混ぜてよ」

彼はリーズをブン殴った左手を何事もなかったかのような自然さで下ろし。

狼みたいに鋭く光っていた目が、妖しい笑みに細まった。

「なんだ―てめぇ。誰だ?」
テッドがズイッと前に出て、威圧的に睨んだ。

テッドは背が高い。上級生の誰よりもデカくて体格がいい。…ハズだった。

今、目の前にいるこの男は、そのテッドよりも背が高かった。テッドの顎の辺りに肩がある。

「俺はただの通りすがりだけど」

おどけた仕種で肩をすくめ、ニコッと無邪気に笑ってみせる。身長と不釣り合いな、子犬みたいな笑顔だ。

「見たことねぇぞ、お前。
おい、リーズどうだ?」

「知らねぇよそんな奴!てめぇ
いきなり殴ってんじゃねぇよ!」
鼻血で顔を真っ赤に汚したリーズが怒鳴る。
「え?何言ってんの?
俺はお前が犯罪まがいな
ことしてたから
止めただけじゃん」

キョトンとした顔をする男。
周りの仲間達は、動揺して立っているだけだ。

「てめ…っ」
「―おめぇ、誰だ」

リーズを遮り、繰り返して問うテッド。

「だから、通りすがり」
「ただの通りすがりがリーズを
殴る必要はねぇだろ?
てめぇ、レイルの知り合いか」

流れるように男の視線が、レイルに移る。

「へぇ。レイルか。可愛い名前」

?!
なんだ…?コイツ―

「俺はルシア。よろしく♪」
「……?」

訝しげに見上げると、ルシアは小さく首を傾げて、あれ…失敗?と呟いた。

「てめぇ…ッ、この俺の質問を
無視すんじゃねぇよ!」

「あっ…」
レイルから目をそらさないルシアの背後で、テッドが大きく拳を振り上げた。

殴られる…!

「うっ…!?な、」
いつの間にか振り返ってた彼は、大きく腕を上げたせいでがら空きのテッドの腹を、蹴り上げた。

ガタイのいいテッドが、呆気にとられるほど簡単に吹っ飛び、仲間達にブチ当たった。

「?!テッド!」

ドワッと彼らが慌てだす。テッドにぶつかられた少年は失神してしまったようだ。
 

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