君に願いを…

□dearest
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まどろみの中で感じる確かな愛。
それはいつも彼から与えられ、私も彼に与えるもの。
そう、それはお互いに無くてはならないもので…。
私達は同じ時を過ごして今を生きている。
だから未来に繋がる今を大切に慈しむの。
ね、昴さん…。






dearest





閉じた瞼がうっすらと光を感じて私はゆっくりとそれを開ける。
目覚めてすぐに見えたのは、開け放たれたカーテンの前に立つ逞しい背中。
今日の天気はどうやら快晴のようで、レースのカーテン越しでも振り返った彼の表情が逆光で霞がかったようによく見えない。
私は瞼を擦りながら、なぜだか気怠くて重い自分の身体をやっとのことで起こした。
すると聞こえて来る私を気遣う声は柔らかく優しく響く。
でもその声は何故か小声で…。

『…何で小声なの?』

疑問を思わず呟いた私に返ってきた返事は私ではない人物に向けられていた。

『まだよく寝てるから静かに、な』

微笑みながら人差し指を唇に当て歩を進める彼は、私達のベッドの隣にある小さなもう一つのベッドを覗き込んだ。
(あれ…?こんなのあったかな?)
見覚えのないベビーベッド、でも私はそれを知ってる。
頭の中では疑問を感じてる自分と、そうねと呟く自分に違和感を感じながらも私は、当然のようにもう一人の存在に眼差しを向けていた。
すやすやと穏やかに眠るその子は、男の子にも女の子にも見える。
その寝顔を眺めていれば私の中に愛しさが沸き起こる。

『ふっ。この寝顔はお前そっくりだな』

その声に隣を見上げれば私と同じように慈愛に満ちた穏やかに微笑み、人差し指の背でマシュマロのような頬をそっと撫でている彼がいた。

『昴さん…』

『ん?』

『………っ、何でも、ないよ』

本当はなんでもなくなんかなかった。
でも、急になぜか泣きたくなって慌ててそんなことを言ってしまった私。
そんな私を特に気にすることなく、相変わらず我が子を愛でる彼のその眼差しは慈愛に満ちている。
だけどなんとなくその光景に現実味がなく、空気もふわふわとしている気して、その時違和感の理由に気づいた。
(ああ、これはきっと私達の…)
そこまで考えると周りの景色が少しずつぼやけて来る。
そして聞こえて来たのは少し慌てるような昴さんの声と、私の頬を包みながら優しく目尻を擦られる感覚。

「…い……おい、さくら…。どうした?」

静かに目を開ければ心配そうに眉を寄せる表情で私を覗き込む昴さん。
(心配しないで。大丈夫だよ)
そう言いたいのに寝起きの私の声は掠れてしまい、しかも涙が込み上げてきて上手く言えないのがもどかしい。
だから、そのまま両手を伸ばして彼にしがみついた。

「おい、大丈夫か?悪い夢でも見たのかよ」

「…ううん。その反対…。とっても幸せな夢だよ」

「幸せって?」

「うん、あのね…」

安堵からか少し柔らかくなった声は私を包み、腕は私を優しく抱き起こしてくれる。
そしてわたしは彼の耳元でさっき見た夢を教える。
今は確証はないけどある可能性があることをも添えて…。
その時の昴さんの顔を私はきっと一生忘れないと思う。

「ねぇ、昴さん。最愛の人って2人いてもいいのかな?」

「…まぁ、それは特別に許してやるよ」

「ふふっ、本当?ありがとう」

夢と同じ快晴の空から差し込む朝の柔らかな日差しの中で、私達は笑顔で額を寄せ合った。





end.
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