君に願いを…
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ふわふわ……
ふわふわ………
まるでお母さんのお腹の中にいるよう。
お母さん、私はこの世で一番好きなひとを見つけたの。
私の一番好きなひと………
さくらが目を覚ますとカーテンの隙間から朝日が差し込む。
まだ夢から醒めきれない身体を漸く起こして気づいた。
自分の頬が濡れていたのだ。
さっきまで何か夢を見ていた筈なのに、今はもうその内容も涙の理由もわからない…。
だだとても大切なことだった気がする。
それだけはわかった。
そう、きっと私は一番大切なことを忘れている…
昴さんとプラネタリウムに行ってから3週間が過ぎた。
あれから私の記憶は相変わらず戻っていないようだけれど、ただ少しだけ日常には変化があった。
リハビリを毎日頑張った成果がでたのか、左足も以前より良くなり身体も辛くはなくなった。
今まで手助けなくては出来なかったことも、ほぼ一人でできるようになっていった。
でも傷跡は消えることはなかった。
落ち込んでても仕方ないと気持ちを奮い起こして前を向く。
それを私に思わせてくれたのはあのひと。
私は昴さんに恋をしている。
『昴さん。私は貴方が好きです』
今日私は官邸から出ていくことになっている。
『ここにずっといてもいいんだよ』
とお父さんには言われたけど、気を遣われることに少し窮屈になっていた私は数日前に思いきって提案したのだ。
『一人暮らしがしたい』
そう伝えた時お父さんの顔色が変わった。
でも変わったのはお父さんだけじゃなくその場に集まってくれたSPの皆さんも同じ顔をしていた。
少し突然過ぎたかな?とも思ったけれどいずれはここを出なきゃいけない。
だから前を向こうと決めた今だからこその提案だったのだ。
記憶がなくても生きて行かなくちゃいけないことをわかってるからこそ一人になりたかった。
一人で考えたいこともあったから…
「ダメだっ!」
お父さんより早く反対の意見を述べたのは昴さん。
彼が反対するのは予想済みだ。
「そうだよさくら。わざわざ一人で暮らさなくても…もし何か気になることがあれば言ってくれて構わないし、ずっとここにいていいんだよ?」
「ありがとうございます。色々よくしていただいて本当に感謝してます。でも、いつまでも誰かに頼ってばかりじゃ私きっと後悔すると思うんです。記憶は戻ってないけど、これから自分で生きて行かなくちゃならないのは変わらないし、だったら順調な今思いきってやってみたいんです」
「だが…まだ早いんじゃないのかな?もう少したってからでも…」
「そうですよ春日さん。我々も貴方が心配なんです。まだ一人になられるのは早いかと…」
「そうだよさくらちゃん!ここにいた方がいいって」
「さくら、お前なに早まったこと考えてんだ?ここには総理や俺達がいるんだから安心じゃんか」
「僕はいいことだと思いますけど」
「藤咲君?」
「何言ってんだよ瑞貴!?」
「藤咲さん…」
みんな反対意見を述べる中藤咲さんだけが賛成してくれた。
その様子を昴さんも黙って見ていた。
「だってさくらさんずっと頑張ってたの皆さんも知ってますよね?実際その成果も出てますし一人暮らしが駄目というならひとまずお試し期間ということにしてみたらどうですか?実際にやってみてやっぱり無理とわかったら官邸に戻ることを条件にさくらさんの意見を尊重してもいいんではないでしょうか。でいいかな、さくらさん」
「藤咲さん、ありがとうございます」
「それでもダメだ!」
黙って聞いていた昴さんが口を開いた。
「昴さんはなんでそんなに反対なんですか?」
「なんでってまだ無理に決まってるからだ」
「無理だってどうしてわかるんです?そんなに心配なら、だったら昴さんの家にさくらさんを住まわせてあげたらどうですか?そしたら昴さんは安心するんじゃないですか?」
「なっ!藤咲さん!それはちょっと…」
思いもしなかった提案に私が反論しようとしても話はどんどん進んでいってしまう。
「ああ!それなら安心だね。桂木君?」
「そうですね。春日さんの安全を考えればそれなら我々も安心できますね」
「いいかな?一柳君」
「………わかりました。お嬢さんは私がお預かりします」
「え?ちょ、ちょっとまって…」
「よかったなさくら!昴さんならお前の専属SPなんだし気心知れてるだろ?」
もっともらしいことを私に言いながら肩に手を置くのは幼なじみの海司。
「ちょっと待ってください!私は一人暮らしをしたいんです!どうして一柳さんと…」
「さくら、父親としてやっぱりまだ一人で暮らすことを許すことはできない。一柳君なら君を守ってくれるし頼りになるから大丈夫だよ」
満足そうに微笑むお父さんに戸惑う。
『専属SPだからって男性の家に娘を預けるってどういうこと!?一応私嫁入り前の娘なのに!』
と思わず口からこぼれそうになるがにこにことして安心している父親を見て強くでられなかった自分の選択は、後に正解だったのかもしれないと思う時が来るなんてその時は思わなかった。
そしてその場はなんだかんだでその意見を押しきられてしまい私は昴さんの家に同居することが決定事項となってしまった。
「おい…瑞貴。お前最初から昴さんの家にさくらちゃんを行かせようと考えてたろ?」
「え?何言ってるんですかそらさん。僕はそんなこと考えてなかったですよ?たまたま思いつきを言っただけですから」
「お前ってホント……」
「ふふっ。僕はさくらさんが幸せになってくれたらそれでいいんですよ」
そんな会話をしていた2人がいたなんてその時の私は知る由もなかったのだった。
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