君に願いを…

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お互いの想いを隠したまま、昴はいつも通りにさくらに付き添い、そしてさくらは懸命に辛いリハビリに耐えた数日後退院の日にちが決まった。

2週間後。

その期間は奇しくも昴が日本からアメリカに発つ事を決定した後にさくらと過ごした期間と同じだった。
あの時過ごした時間は離れ離れになる寂しさがあっても幸せに満ちていた時間。
けれど今はその時と同じ気持ちでいられない悲しさが心の中に潜んでいた。
さくらの身体は傷跡が残り左足も引きずるようにしか動かせず、そして昴と過ごした日々も未だ思い出せていない。
しかし、さくらは昴への想いを自覚したあの日から心の中が温かくなるのを感じ、昴とも普通に接することができてきた。
認めてしまえば、コトン、とまるでパズルのピースがぴったりはまっていく感覚。
けれど、今の自分ことを冷静に見れば迷惑でしかないと思ったさくらは、未だ昴の事を名前で呼べずにいたのだった。





「荷物はこれだけか?忘れ物はないな?」

「はい。大丈夫です」

「じゃ、行くか」

「はい」


さりげなく手をひてくれる昴の手を嬉しく思いながゆっくりと歩を進める。
退院が決まったからといって身体の調子が完全に治ったわけではない。
引きずるようにしか歩けず人一倍時間がかかるのが申し訳ないと思ったさくらは無理に左足を動かそうとしていた。
そんな彼女の考えていることなどお見通しだというように昴は忠告した。


「おい。まだ無理はするなよ。やっと退院出来るって言うのに無理して病室に逆戻りになるなんてもう嫌だろ?」

「う……なんで私の考えてたことがわかるんですか?」

「そんなん分かるっつーの。お前顔に出すぎ」

「…すいません。迷惑掛けて…」

「迷惑だったら俺はここにいないけど?それに謝るんじゃなくてお礼のが俺は嬉しいんですけど」

「すいませ…じゃなかった!ありがとうございます」

「それでいい」


昴のその優しい微笑みに涙が出そうになった。

『この笑顔を独り占めできたらいいのに…』

好きだと自覚したらその先に進みたいと欲が出てきてしまうのは仕方のないこと。
さくらが滲みそうになるその姿から目をそらし俯く。
そして、その俯くさくらを見つめる昴が切ない眼差しを向けていたことにさくらは気付けなかった。


車に乗り込むとまだ上手く身体を覆うように動かせないさくらのために、彼女にかぶさるようにしてシートベルトをつけてやる。
そうすればさくらは真っ赤になって小さな声でお礼をいう。


「…ありがとうございます…」


そんな光景を懐かしく思いながら官邸に続く道を昴は運転するのだった。


「失礼します。さくらさんをお連れしました。」


扉をノックし入った先は総理の執務室。


「入りなさい。さくら!退院おめでとう。身体の調子はどうだい?大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます。お父さん」


さくらは心配してくれる平泉にほっとして自然と『お父さん』と口に出していた。


「よかった。父さんと呼んでくれてありがとう。さくら。今日は疲れただろう?ゆっくり休みなさい」


挨拶もそこそこにして休むよう促されたさくらは自分に宛がわれた部屋へと向かう。
一人で生活するにはまだ色々と無理があるので、みんなでサポートできるようにと官邸でしばらく生活するように決まっていたのだ。
未だ記憶も戻らないさくらにかわり通っていた大学の方にもすでに休学届も出されており、さくらの親友のみどりや小杉にもそのことは伝わっていた。
みどりは事件のあと自分を責めていたらしい。
『自分が休憩しようと言わなければ…バイトの都合であの日に変更していなければ…』
などとさくらが目覚めたあと病院に駆けつけたとたんに泣きながら謝っていた。
そんなみどりを責めることなく数年間の記憶をなくしたさくらがみどりを覚えていないのに優しく
『気にしないで。みどりさんも無事でよかった』
と手をとりながら慰めていた。
それを見た昴は改めてさくらの強さや優しさを感じ、記憶を失ってもさくらはさくらであることを再確認したのだった。







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