波乗少女
□four surfing!
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『ちょ、ちょっと…』
男は人気のない岩海岸まで、無言で私の手を引いていた。
こんな…同い年くらいの男の人と手を繋いだ事なんて無い私は、そんな些細な事だけで心臓が早歩きをしていた
ぴたっと、止まったのは大きな岩の前、砂浜まで来た所…
既に日は傾きかけていて、海が煌々とオレンジ色に染まっていた
「何であんな所にいた?」
『……は?』
ぼそりと呟かれた言葉は私には届かずに、空を彷徨って消える。
未だ男は私の方を向こうとせずに、今度は少し大きめな声で言った
「どうして無理やりにでも逃げなかった?あいつ等、最近この辺をうろうろしてる観光客だ、逃げればしつこくは追いかけて来ない筈だぜ」
『だって…』
特に理由はなかった様な気がする、何故逃げなかったのかなんて
この手の温もりよりも、自分の心臓が早歩きをしている事よりも…とてもちっぽけな事だと思ってしまったから―…。
「はあ、俺が来なかったらお前変なとこに連れて行かれる所だったんだぜ」
『変なところ…?』
と呟くと、やっと男は私の方を振り向いた
少し…怒ってる…?初めて見る真剣な顔
『う…うるさいな、あんたが来なかったら私だって逃げてた…』
タイミングが重なっただけだ…
真剣な顔が何だか見れなくて…夕日の方に顔を背けた
『助けてなんて…言ってないし、あんたなんか来なくたって私だけで何とかしてた』
「ったく、そういう態度、可愛くねえぜ?」
『何よそれ、別に可愛くなくて良い…』
「あのなあ…」
はあ…と溜め息をつかれて、私は少し言い過ぎたかな…と眉を下げた
がしがし、とピンクの頭をかくと男は再びこちらを見る
「俺は綱海条介だ!宜しくな、お前…名前は?」
さっきの真剣な顔とは裏腹に、にかっと笑った綱海に私の頬がまた熱を帯びだすのを感じた。
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