企画小説
□越前
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U−17国際テニス大会、本選が始まった――。
「…――10時20分より、第一コートにて、フランス対中国の試合を行います」
ガヤガヤ煩い会場内に、スピーカーからアナウンスが流れる。
この煩さも気にはなるが、数日前までよりは数十倍マシだ。
U−17国際テニス大会の予選は、参加校が多く、携帯がなければ仲間とはぐれたとき一大事となるのでないかというほどだった。東京のスクランブル交差点や、大規模の祭りを思い出して欲しい。気分はそんなだ。
「ヒュー、今年はどんな奴がいるのか楽しみだぜ!」
監督の話しを聞いてる途中だというのに、チームメイトの一人、ビリーが口笛を吹く。
(ここにも煩い奴が…)
溜息をつきたくなる越前の代わりに、コーチが案の定怒る。しかし彼はそんなのを気にする奴ではない。
「バカかお前…」とケビンがジト目を向けているが、どこ吹く風。テリーはクスクス笑い、彼の兄であるトムは苦笑い。
この面子でテニスとくれば、もうわかるだろう…。
そう、越前のチームメイトのほとんどは、かつての敵――。
越前とケビン、二年前ストテニで仲良くなったケン。この三人は、中学生からの特別選抜だ。日本でいう遠山たちと同じ立場。それ以外は全員高校生。越前には謎でしかないが、何故か越前リョーガもチームにいる。
越前とリョーガとケン以外、残りは二年前、越前もいた関東Jr.選抜チームと戦ったメンバーだ。ケビン、トム、テリー、ビリー、マイケル。後の二人も補欠としている。
まさかあの時のメンバーと、しかもリョーガも加えたチームで一緒に戦う事になるなど、あの頃の越前は思ってもみなかった。まさに人生何が起こるかわからない…。
それにしても、こうも都合良く集まるとは……。
今いる面子は、合宿を勝ち抜いたメンバーだが…。
(はぁ…。他に強いのいなかったわけ?)
ぶっちゃけ疲れる。ケビンとケン以外……。特にビリーとリョーガ…。
(…氷帝とか立海とか四天宝寺とか、個性強すぎって思ってたけど……)
二年前のU−17合宿では変な高校生やコーチが山ほどいたし、今回の合宿でも散々だった。上には上がいる…。全く良い意味で言ってはないけれど……。
そんな事考えながら監督の話しを流す。「解散!」と言われ、周りと一緒に「失礼します!」とだけ返しておいた。中身は全く聞いていなかったが、おそらくケンが聞いていただろうから良いやと結論付ける。
この監督の話しが長いのがいけないんだ。
「リョーマ、試合まで時間あるけどどうする?軽く打つか?」
ケンが話しかけてくる。まぁ、普段ならそうするところだろうが、生憎今回は行くところがある。
「ごめん、ちょっと別行動するからケビンあたりとやってて」
そう言いながら、地面に下ろしていたラケットバックを持ち直し歩き出す。
後ろで「俺あたりとって何だ」と、ケビンが文句を言っているけれどスルー。リョーガのニヤニヤっとた笑みも、勿論無視だ。
「試合前にはちゃんと戻って来るのよー」
「わかってるよ!」
テリーの言葉に、内心「アンタは母親か」とツッコミながらも、越前は軽く手を振り人ごみの中に入って行った。
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