企画小説
□越前
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目的の顔を探し、人の中を進んで行く越前。
そもそも、試合前の大切な時間にどこへ行くのか…。
目的地は勿論、日本代表チームのいる場所だ。
二年間、メールや電話のやり取りはあっても、直接会う事は一度もなかった。忙しく、日本に行けなかった事もある。
それならば、この大会は絶好の機会だ。そもそも試合前に念入りにアップなどしなくても、自分のコンディションぐらい、自分で作れる。因みに予選の時に会いに行かなかったのは、人が多すぎて探す気になれなかったためである。
(さすがに不二先輩あたりは抜いたでしょ、俺)
二年間の間に随分身長も伸び、体つきも多少変わり、髪も弱冠伸びた。トレードマークの帽子がなければ、パッと見誰かはわからない。
彼らに今の身長の事など話していないし、今回のチームジャージはフード付きなため、いつもの帽子を脱いでフードを被ればもうどこの誰かなんてわからないだろう。
ここには中国などのアジア系の国を代表したチームも沢山あるし、何より人数が多すぎて一人一人の顔をちゃんと見てる人何てまずいないはず。数人やっていそうなデータマンズはいるが……。
(まぁ、俺予選選手登録してないし、バレてないでしょ。多分…)
言い切れないところが、あの人たちの情報網の計り知れなさと気持ち悪さである。
無駄に濃い数ヵ月の間に慣れたてしまったが……。
「……いた…」
金髪や赤毛、青い目。日本人とは明らかに違う容姿の人たちのいる場所を抜け、アジアのチームが固まるエリアへ行く。
目的の人たちはすぐに見付かった。何せ他の国のチームに比べ、人数が圧倒的に多い。おまけにやたら顔が良かったり、髪が派手だったり、話し方に特徴がありすぎたり…。
(遠目でも見付けられるのはともかく、声まで聞こえてくるって煩過ぎでしょ、英二先輩と向日さんと四天宝寺の人たち……。その他諸々も…)
相変わらずな様子に呆れる。
だが……。
「変わんないね、皆…」
呟きながら近付く。懐かしさについ笑みが浮かんだ。
そして気付く。
(部長と跡部さんも来てたんだ…)
予選から登録はしてた手塚と違い、跡部は越前と一緒で登録すらしてなかった。まぁ、いるとは思ってたけれど…。
騒がしのはこの二人のせいもあったか、と妙に納得する越前。
無言で日本チームの固まりに近付く自分に、いや、そろそろ一人ぐらいこっち見ない?と思っていたところで、跡部がふとこちらを見た。
その表情が、徐々に顰められていく。「えちぜん…」と口が動いた。
(ウソ、バレたんだ…。さすが跡部さん…)
驚きながらも、もはや彼の偉業は“跡部さんだから”、で片付けてします越前。
何気ない動作のまま左の人差し指を自分の口許にあて、所謂シーっのポーズを作る。何かを悟ってくれたのか、ニヤリと笑って越前から視線を外す跡部に、今度は彼が笑みを浮かべた。ノリが良くて助かる。
「……ねぇ…」
手塚たちが立っているすぐそばまで歩み寄り、さすがに「何だ?」という顔をして来るメンバーもちらほらいる中、越前は至って普通に声をかけた。
いつもより少し大きな声に、騒いでいたメンバーも、結構な人数が越前の存在に気付く。面白そうに笑っている跡部。声に違和感を感じたのか、何人かが越前をジッと見つめる。
沢山の視線を集める中、誰かの「何だよ?」という声を聞きながら、越前はパサっとフードを外した。
顕になる黒髪に、三白眼。すぐに察しがついたらしい何人かが、はっと息を呑む。
「チーッス。久しぶりっスね」
一斉にこちらを見る先輩たちやライバルたちに、つい口許が緩んだ。
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