春風
□story 2
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春風につれられてきたところは、高い高い丘の上に、一本だけ大きな桜の木がたっているところだった。
「大きくて…綺麗だな」
溜息まじりにそう言うと、春風は満足そうに頷いた。
「この桜はシラハという名前なんだ」
その場に座って無言で桜を眺めていると、俺の隣に座って、桜の木を目を細めながら眺めている春風が突然言った。
「シラハ?桜に名前なんてあるのか?」
「あぁ。シラハは昔妖怪だったんだ」
「え?妖怪って木になれるのか?」
「…シラハはこの場所で死んだんだ。シラハがいなくなった後、この桜が芽吹いた。だからこの桜の木に"シラハ"という名前をつけたんだ」
「そうか…」
きっとシラハは春風の大切な人だったんだ。
春風は大切な人を見るかのような暖かい、それでいて寂しそうな眼をしていた。
どんな想いで、どれほどの想いで、シラハの事を語っているのか、俺には想像もつかなかった。
でも、不謹慎かもしれないが、大切な話を俺に話してくれた事が嬉しかった。