30000きねんブック
□第一次接近遭遇、失敗。
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その女をつかまえろ
そう、頭の中で声がした
気がした。
通りの茶店に美人がいる、と隊士たちが噂していたので、ほんの興味心でのぞきに行ってみた。最近働きだしたらしい美人とやらの顔を見るのも悪かねーだろ、という軽い気持ちだった。
茶店に近づくとやたら客に声をかけられている店員がいて、ああコイツかなと思いながら椅子に腰掛けた時。
いらっしゃいませ、と掛けられた声に耳が震えた。
そしてその瞳を見た時、ざわりと血が騒いだ。
この女をつかまえろ
脳味噌の中を電気信号が走るのがわかるような感覚に皮膚の下がぞわぞわと騒ぐ。痺れにも似たものが背筋を走り、まばたきを忘れた。
黒い髪、長い睫毛、手触りの良さそうな肌、色付く唇、白い首、細い肩、手首、指先、と
まっすぐな瞳に目が離せなかった。心を奪われるたあこのことか。
どくんどくんと脈打つ心臓。身体中で欲しいと感じるものを目の前にして動けないとは。
「ご注文はお決まりですか?」
再びかけられた言葉にはたと状況を思い出す。次に出た言葉は後から考えても駄目だこりゃの点数しかつかねえ。
「あんた。」
「はい?」
「あんたが欲しい。」
「はあ?」
彼女の間抜け面を見てやっとニヤリと笑えた俺の耳に、待て!と怒鳴り声が聞こえた。
「隊長!桂です!」
途端にプツンと思考回路が切り替わる。辺りに目を走らせ目標を定める。しっかり足場を決めてガチャリと照準を合わせてから、
「カーツラァァァァ!!」
ドカンと一発。
いや二発、三発。
逃げられました、の報告にチッと舌打ちし、気付くと辺りはまた瓦礫の山と化していた。
「あーらら、またやっちまったィ。…っと!」
辺りには野次馬。その中にさっきの店員を見つけ出して近づくと、怯えたような顔にニイッと笑ってやった。
「あんた、さっきの話ですがね、どうですかィ俺といっぱじゃねェ、付き合ってみませんかィ?」
驚いて間抜け面の彼女はにっこりと笑い返してきた。それは大層別嬪でまたどくんと心臓が鳴った。
「ふざけんなクソガキ!店どーしてくれんだよ死ね!」
どうやら第一段階は失敗したようだ。