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□もう逃げない(2/24)
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グラン=パルスに着いてからもう何日経ったか分からないくらい時間が流れた。
ルシの烙印も着々と変化している。
もう時間がない。
ベースキャンプの調理場付近ではライト、サッズ、スノウ、ホープの4人が、捕まえてきたコチューを食べるかどうかで盛り上がっている。
私とファングはさっきのオチュー狩りでヘトヘトになっていたから、少し離れた所でその様子を眺めていた。
スノウも一緒に戦っていたのに、議論が始まるとワクワクした顔つきで混ざりにいってしまった。
グラン=パルスに来てからよく見る平和な風景だ。
ずっとこんな日々が続けばいいのに。
そう願ってもいつかはタイムリミットがきてしまうことを知っている。
そして、みんなをそんな期限付きの旅に巻き込んでしまったのは紛れもなく自分だということも。
初めはファングを戦いに向かわせたくなくて記憶から逃げた。
次はコクーンで出会った人たちを傷つけたくなくて、ファングをおいてひとりパージ列車で逃げた。
最後はルシにされたみんなのつらそうな顔を見たくなくて、コクーンを滅ぼしたくなくて現実から逃げた。
そして最初から最後まで、自分の弱さを盾にして逃げた…。
私、逃げてばっかだ。
そのせいでたくさんの人を傷つけた。
こんな状況にまで追い込まれた。
誰も泣かせたくないのに、みんな守りたいのに…。
全部私が弱いせいだよね。
ねぇファング。
私、どうしたらいいのかな?
「ん?なんだぁ、人の顔ジロジロ見て。」
みんなを見つめていたはずの私の瞳は、いつの間にかファングに向けられていたらしい。
「あ!ううん、何でもない。」
慌てて視線をみんなの方に向けなおす。
「なんかあるなら何でも言えよ。お前ひとりに背負わせる気はねぇからな。」
そう言ってファングは私の頭に手をおいた。
…そうだよね。
私が隠し事したり嘘付く度にファングは心配してくれた。
時には言葉で、時には態度で私が傷つかないように守ろうとしてくれた。
いつもそうやって守られてばかりだったから、強くなりたくて甘えちゃダメだって決めてた。
弱い所を見せちゃダメだって。
でも…
でもきっと、そんなんじゃ強いっていえないんだね。
悩みも弱さも隠さず抱えて、それでも希望を失わずまっすぐ前を見る。
きっとそれが強いってこと。
みんなが、ファングがいたからやっとそのことに気付けたんだ。
この重い荷物を一緒に背負ってくれる『仲間』だから。
だから、もう逃げないから、
甘えてもいいよね。
弱さを見せてもいいよね。
一種の決意にも似た想いを胸に、再びファングを見つめて口を開く。
「…ねぇ、ファング。私ね、シ骸になりたくない。みんなもなってほしくない。でも、コクーンもセラもドッヂも守りたい。 …それからファングともずっとずっと一緒にいたい。」
私の突然の告白に、驚いた様子もなくファングは私を見る。
「…あぁ、みんな守ろう。ふたりで一緒に。大丈夫だ、私とヴァニラなら出来る。みんな守って、ふたりで幸せになろうな。 私は何があってもヴァニラの側を離れないから安心しろ。」
ファングの優しくて力強い言葉に、私は鼻がツンとして目がぼやけそうになりながらも心からの笑顔をファングに向けた。
「うん、…うん。そうだよね!ありがとう、ファング!!」
「いいってことよ。」
その先にはいつものファングの笑顔があって、幸せだなって感じた。
こんな幸せを永遠のものにするために頑張ろうと思えた。
未来はいまだ真っ暗だけど、ここにいるみんなが灯りとなって目の前を照らしてくれるから。
私の隣にはいつでもファングがいてくれるって信じているから。
私は逃げずに先へ進むと決めた。
「お、どうにか解決したみてぇだぜ。ほら、行くぞヴァニラ。」
「うん!」
そう言って立ち上がり、差し出してくれたファングの手をしっかりと握ってから、みんなの元へふたり一緒に走っていった。
END.