selfish

□虚偽の肖像
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「・・・また『瞑想』ですか」

扉が開かれたと思えば無言で自分に近寄る白い影。
寝台の上でシーツを羽織っただけの姿の骸は、呆れた、とでもいうように視線を男へと向けた。
伸びてきた腕に僅かに身体を震わせたが、予想に反して男はこの身をすり抜け、真っ逆さまに倒れ込んで。
そんな白蘭に、骸は「良い様だ」と放った言葉とは裏腹に、複雑に眉根を寄せたのだった。






如何にも身体の不調を表すような不規則な呼吸と、びっしょりと汗で濡れた額。
戦闘で負けた自分を監禁し、いいように弄んだ男が苦しむ姿はひどく滑稽だ。
そんな白蘭の様子を横目に、今なら六道の力を封じられ能力を使えない己でもこの男を始末出来るかもしれない、と骸はオッドアイを瞬かせた。

そう。
このまま後ろから手を回し、首を掴んだら思いきり力を込めて、締め殺せばいい。
疲労に伏した今ならば、この男とて些細な抵抗の後やがて力を失い、物言わぬ肉の塊へと成り下がるだろう。

散々陵辱された身体は、正直動かすのも億劫なれど、地に平伏す白蘭を想像すると、骸は腑煮えくり返る想いが払拭されるように思われた。
そんな気持ちに動かされるまま気付かれぬようそっと腕を伸ばし、男へと指を向けて。
無防備に晒された長い首は、何の反応も示さないままにそれを受け入れた。

「っ・・・」

しかし、触れた瞬間皮膚に伝わった熱に、骸はその手を離した。
火傷をする程にその身体は熱を発して。
尋常でない温度に骸は軽く舌打ちすると男から身体を背ける。

「・・・無様ですね」

それは男へ向けた言葉か、或いは己へ向けた言葉だったのか。
いずれにしろ、その意味合いに大きな違いはない。

ヘラヘラと常に不愉快な笑みを讃え、力任せに自分を弄ぶ男。
身体中に付けられた愛撫の痕すら、まだ生々しく肌を彩っているというのに。
屈辱ばかりが支配している胸中、何故この男を手にかける事が出来ないのか。
わけの解らぬ己の甘さに、骸は再び舌打ちした。








それもそのはず。
これも今回が初めての話ではなかった。


実のところ、近頃白蘭はパラレルワールドの行き来を頻繁に行っているようで、今回のような事が、今までにも2、3度はあったのだ。
その度に、骸は弱った白蘭に手を下そうと試みるも、結局同じように成し遂げられずにいた。

白蘭の様子から察するに、現在ボンゴレがミルフィオーレの優勢に立っているのは明らか。
それは骸にとって、願ってもない喜ばしいことのはずだ。
自分をいいように扱った白蘭が苦しむ事も、マフィアの抗争が終焉に向かう事も。


穏やかに過ごしていた頃に戻りたい、という気持ちは確かにそのまま胸を占めていて。
この閉ざされた世界から抜け出し、自由の身となって犬や千種やクロームと、馬鹿みたいな事で騒いだり、笑いあったり。
自分にべったりで少しだけ生意気なフランを教育したり。

そんな馬鹿みたいに平和で長閑な生活に戻りたい、と。

その為には、今目の前に倒れている男には、消えてもらわねば困るのだ。

それなのにー。


「何故手を下せない」

と、悔し紛れに奥歯を噛んだ。








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