ありがとの気持ちをこめて。

ペーター×アリス






帰ってきてしまった…
仲良くなったみんな…
道だってもう完璧だったのよ…
仕事だってちゃんと出来る様になったわ…
アイツとも…


だけど…

帰ってきた…。

全部、全部、全部を捨てて。

戻ってきた現実…。

現実を見せつけられた…。

何でこんな辛い事忘れてたのかしらね。
本当にあそこは夢の世界だったのね。

楽しい事がありすぎたのよ。
私はあの姉さんとの、ゆっくりとした日曜の午後の時間で止まってくれていた方が良かったのかしら…?

姉さんと一緒にランチをした綺麗な庭。
あんなに暖かった日差しも、居心地が良かった芝生も、優しく撫でてくれるような風も。
今は何もかもが寂しい…。
心に留まる事無く、流れていってしまう。
自然に涙が流れる…。

こんなに弱くなるなんてね。
自分の不甲斐なさに笑えるわ。

寝転がって空を見る。

あの国には無い、少し濁った空。
この空が私の心を濁らしているのよ。

そう言い聞かせ瞳を閉じる。

眠りについてもあの病弱な夢魔には二度と会えない事も知ってる。

それでも願いながら夢をみる。

見た夢にはアイツが出てきてた様な気がする。
声が聞こえた気がする。

「…………ス……」

薄く瞳を開ける。

服を着た白いモコモコした物体が薄く見える。


「……リス…………アリス………」


今度こそぱっちりと瞳をあける。
夢を見ているの…?

目の前には洋服を着て二足歩行の白兎がいる。

「ぺー…………タ……?」
「やっと起きてくれましたね?遅刻してしまいますよ。会議が始まってしまいます!あなた無しの会議なんて出る必要性がないです!」
わたしの瞳を見つめる真っ赤な瞳。
その真っ赤な瞳は私が起きた事を確認すると、パタパタと前の時と同じ方向に走って行った。

前は面倒くさくてそのまま眠りにつこうとしたっけ…。
今の私は…。

何も考えずその後について行く。
掛けて追いかける。
草むらの角を曲がる。
ふわっと優しく誰かに抱き止められる。


いつの間にか私よりおおきくなったそれが、痛いぐらいに抱きしめる。
腕を背中に回し抱きしめ返す。

「ペーター…」
「あなたがいなくなってしまって…、気が狂いそうでした…。」

私だって…。

軽く唇が触れる。
もちろん、魔法の液体を飲ませるような無理矢理のキスでは無い。
優しい恋人同士のキス。
それは徐々に深く、濃厚になる。息が苦しい…。

「今度はちゃんと追いかけて来てくれましたね…。」

額・頬・瞼・鼻…
顔中のいたる所にキスが降り注ぐ。

「もぅ貴方を離したくないです。」

ペーターの胸に顔を埋めたまま上げる事が出来ない。
こんな顔、見せられないわ。

「アリス…?」

息を一回おおきく吸う。
心臓の音を押さえ、顔を整える。
「しょうがないわね。私、貴方が会議に遅刻してない所見たことないから…」

視線が痛いわ。そんなに見られたら穴が開いてしまうわ。
甘えてしまっていいの?こんな弱い私でいいの?この一言を言っていいの?

「…いっ、一緒に帰ってあげる。」

ペーターの顔が見る見るうちに笑顔になる。
さっき以上の力で抱きしめてくれる。

「い・痛いわ…」
「あぁ、アリス…アリス…」

真っ赤な瞳には涙さえ浮かんでる。
さっき私が流した様な冷たい涙ではない。暖かい涙。

「さぁ行きましょう。アリス。」

手を引かれる。

心の中で静かに謝り続けるしかない。何度も裏切ってしまう現実に、でも後悔はしたくないの。

これからは正直に生きよ…。
この人と一緒に…。

微笑んで見つめる。

「そうね、会議に遅れちゃうんだったわね」
「会議なんてどうでもいいんです!あなたさえいてくれれば!」

さっきの誘い文句をこうも簡単に変えてしまう。
笑いが込み上げる。

握られている手にそっと力を込める。
もう手を離しちゃ駄目ね。


手を繋いで穴に飛び込む。

後悔はないわ。

永遠に落ちていく…。
もう二度と戻ってこれないわね。
でもその先には笑顔で暮らせる場所があるって私は知ってる。

だから恐くないわ。

隣にいり彼の笑顔が私の支えになる様に…。
私の笑顔が彼の支えになるように…。

少しずつ近づく光に包まれながら、願うしかなかできなかった私は、笑顔よ…。

何度も迎えに来てくれてごめんなさい。

そして有り難う………。













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