ハートの国のアリス

□オリジナル
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最近この世界に大事件が起こった

「余所者」がやって来たのだ。
余所者の噂は少しは聞いている…誰もが彼女を愛してしまう。そんな存在らしい。

街はその話で持ちきりだ…

正直、「顔無し」の俺にはどうでもいい話し。役付きにとったら大変かもしれないが…
どーせ俺は顔無し、全く関係の無い話し。

俺はこのうるさい世界が嫌いだ

いつも銃弾が飛び交っている世界。

心が落ちついていられるのは、仕事先の珈琲店ぐらい。
大人の香りが漂う静かな場所だ

別に紅茶が嫌いな訳では無いが

ただ、紅茶はあの『ハートの城の女王』や、『帽子屋』がこよなく愛する物…。

その分裏でのやっかい事が多い…。
たった一つの紅茶で何個の時計が止まったか分からない。

そんなやっかいな物に関わりたく無いと思ったら珈琲の方が良い

何となく働き始めただけだったけど、俺にはこの店との相性が良かったのか、心地良く働けている。

そんな店でも、余所者の話は持ちきりだ…


(…滞在場所はあの時計塔ですって!…)


(…帽子屋に行っても殺され無かったらしいぞ…)


(…ハートの女王、何よりあの宰相がべったりらしい…)



色々な噂が飛び交う。

何処まで本当かは分からないが、それがすべて本当なら、どんだけの絶世の美女だか見てみたい気もする。

心の中でそんな事も思っていた矢先、トラブルも無く働いていた俺の所にも事件がおこった…




カランカラン

店の扉のベルが鳴る。

「いらっしゃいませ…。」

扉の前には女性が戸惑っているかの様に立っていた。

顔がある…。顔無しでは無いが、こんな役付きを見たことが無い。
むしろ役付きの女性はあの女王以外知らない。


…………余所者…。


『あの』余所者が店にやってきた。
ビックリしたが、平常心を装う。
想像していた絶世の美女では無い、むしろ可愛らしいという感じ。


彼女は店の中のコーヒー豆を眺めては首を傾げ、眺めては、首を傾げてる
あきらかに困った態度だ…。

正直関わりたく無い。
やっかい事が増えるだけだ…。
ぐっ…と喉がなる音が聞こえた気がする


「…どのような物をお探しですか?」



お店の店員としては声をかけざるおえない…。
普段だったら、怖くて越えなんて絶対に掛けられる訳が無い


「ちょっと、コーヒーを探していて。」


当たり前な事を言う余所者だ…ここは珈琲の豆屋なのだから。


「あっ!えっと!」



自分が可笑しい事を言ったと気付いた彼女は、恥ずかしそうに顔を赤く染めながら言い直す。

「今、一緒にいる人が珈琲を好きなの。だからとびきりおいしいのを入れたくて」


一緒にいるというのは時計屋の事だろう、たしかに時計屋は珈琲が好きだ、偶にうちの店にもやってきて大量に買い込んでいってる。


「その方の好みにも寄りますが…酸味があるのが良いのか、香りを気になさるのが良いのか…など…。」

彼女は困った顔で笑っている。
あんまり分かっていないのだろう。
軽く説明した方がいいのか?

「ミルはお持ちですか?」
「珈琲豆を砕くやつよね?あるわ。」
「そうですか、特定のお好みの物が無いのでしたら、当店のブレンドはいかがでしょうか?」

彼女の顔が明るくなる。
初めての客にはブレンドを進める。店の味を分かって貰うにはこれが一番だ。
「ありがとう。そうさせてもらうわ。色々な味を楽しみたいの。だから少な目に積めて欲しいの、できますか?」
「もちろんですよ。」

にっこりと笑ってかえすと、彼女もにっこりと嬉しそうに笑う。
最初の印象通り本当に可愛らしい…。

少な目に袋積めする。
お代をいただき、コーヒー豆が入った袋を渡す。

「ありがとう御座いました。またのご来店お待ちしております。」

大事そうにそれを抱え、ペコリとお辞儀をしてから店を出て行った。

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