黒球連載

□生者の行進
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「最っ悪だぁ…」



頭を抱えて何度も電信柱にぶつかりそうになりながら、ヨロヨロと帰路につく私の気分は重かった。

その原因は授業の終わり際にさらっと出されたレポートにある。

課題になっているのは鎌倉仏教関係の内容だったのだが、今日の授業をろくに聞いていなかった今の状況で書くのは不可能に等しく、お手上げなのだ。

仕方なく先生が推奨していた本を借りるために、補習終わり、最終下校時刻ギリギリに図書館に駆け込んだ。
しかしなんということか、私が図書館に駆け込んだ時には既に、推奨本は全部貸し出されてしまっていたではないか。



司書さん曰く、放課後と同時に血も涙もない争奪戦が起こったらしい。

ならば関係ありそうな本を借りようと思ったのだが、おすすめ本をゲット出来なかった残りの生徒達が、無駄に広い図書館をひっくり返す勢いで関連本を発掘し、片っ端から借りていったそうな。

補習で出遅れてしまった私は、司書さんのお心遣いで唯一残ったという仏教関係の本を渡されたのだが…




『仏像とわたし』





「先生のばーか!ガンツのばーか!」



帰宅途中のサラリーマンが何事かと振り返ったが、気にせず叫んだ。

学業の重圧と、前回の田中星人戦から3週間余りが過ぎてもなおミッションが発生しないせいで、苛立ちがピークに達していた。



(ガンツのバカっ…体育祭の日は容赦なく呼び出したくせになんでクリスマスもお正月も普通に過ぎちゃううのー!)



あれからまだ一度もミッションが来ないし、その予兆もない。

適当に星人を狩ってもミッション中でなければ点にはならないので、西くんは帰ってこないし、残るのは虚しさと誰にも見えない死体だけ。


となると、今の私にできることと言ったら、異様な早さで進む授業にひたすらついていくことしかないのだが、それも正直言ってかなり危うい状況だ。

なんであの学校に入ったんだろう、と本気で悩みながら住宅地を歩いていると、唐突に後ろから名前を呼ばれた。



「ーーー花音ちゃん?」



振り返ると、一組の親子連れがいた。…違った。親子じゃなくて年の離れた兄弟だ。それも兄の方はとても見覚えのある人物で……
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