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□君が僕を振るとき
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「どうしたの、ジーノ?」
名前を呼ばれた私は洗い物を終え、タオルで手を拭いてからリビングで一人掛けのソファーに座るジーノのもとへ向かった。
「こっちへおいでよ。」
ジーノが指定したのは彼の膝の上だった。
「え、やだ」
「ははっ、君は本当に照れやだね!」
私の拒否を愉快げに笑うとジーノは腰を上げて私のもとへやって来た。
「ちょっ!」
「お姫さまなんだからもっと甘えなきゃダメじゃないか。」
ジーノに腕を引かれ、そのまま俗にいうお姫さまだっこをされた。
そしてジーノは一人掛けのソファーに戻った。
その間、嗅ぎ慣れない甘い匂いがして私は彼にバレない程度に眉間に皺を寄せた。
「別に2人で1つのソファーに座らなくたっていいじゃん。」
ここにはジーノが趣味で集めたイスがきれいにディスプレイされている。
それなのに2人で1つではイスが可愛そうだ。
なによりジーノから香る仄かな甘い匂いが嫌いだ。
「最近一緒にいられなかったから甘やかしたいんだよ。」
それは他の女の人と会ってるからでしょ?
聞けない問いを飲み込んで私は俯いた。
「どうしたんだい?
僕に君のかわいい顔を見せてよ。」
歯の浮くセリフを吐きながらジーノが私の頬を撫でる。
また甘い匂い。
「そんな甘い匂いさせないでよ。」
ジーノの手を振り払えば彼は驚いた顔をした。
重いと思われたくなかったから今まで黙っていた言葉が堰を切ったように溢れ出た。
「甘えてほしいなら会うたびに違う香水の匂いをさせないでよっ!!!」
情けない声をしていた。
私は視線に耐えられず俯く。
それからがとても長く感じられた。
沈黙を守らなければならないような空気が流れ続けている。
喉が緊張で乾く。
次にジーノが口を開くときが私たちの終わりなんだ。
そう悟ると喉は乾いているのに瞳が潤い出した。
「―――それが君の望みなのかい?」
普段と変わらない口振りに私はゆっくり首を縦に振った。
“別れよう”という言葉を待つだけしかできない。
「分かったよ。」
そう言ったジーノはテーブルに置いてあった自分のケータイに手を伸ばすのが見えた。
この状況に相応しくない行動を不可解に思ってそっと顔を上げた。
するとタイミングよくジーノと目が合った。
彼は私に微笑むとケータイを操作しだす。
静寂の中ケータイを操作する音だけが響いた。
「これでいいかい?お姫さま」
画面を私に見せる。
そこには女の人達のアドレスが入っているグループを削除するかと表示されていた。
私がそれを見ているのを確認するとジーノが消去ボタンを押した。
私は戸惑いの目で彼を見た。
「これで君以外の女の子とは連絡できないから会うこともなくなるよ。
向こうから会いに来てもちゃんと事情を話して会わないようにするから」
にっこり笑うジーノに私は呆気に取られた。
なにを言っていいかわからず口をぱくつかせることしかできない。
「どうしたんだい?
水から上げられた金魚みたいだよ。
あ、もしかしたら今の匂いがきつすぎて気持ち悪いのかい?
僕、お風呂に入ってくるよ。」
私を立ち上がらせるとジーノがお風呂場まで行こうとする。
「ちょ、」
私は咄嗟に手を伸ばして彼の袖を掴んだ。
「なんだい?」
振り返って私を見るジーノは凄く不思議そうな顔をしていた。
「い、いいのっ?」
「なにがだい?」
「ア、ドレスにっ決まってるでしょ!」
「いいに決まってるだろう?」
まだ口がうまく回らないけどなんとか言いたい事を伝えられた。
けれどジーノはさも当たり前な顔をしている。
「そ、んな」
「だって僕は君がいればいいんだからね。
君に嫌われるくらいならアドレスの1つや2つ構わないさ。」
ジーノは私の頬を撫でて頭にキスを落とした。
私の態度にも嫌な顔一つしない彼に私は申し訳なくなって泣けてきた。
どんなにマイペースでもフェミニストが過ぎても結局、彼が私のことを大事にしているという事実は変わらなかった。
「泣かないでよ。」
「.......ごめ、んね」
「何も気にすることはないさ。」
優しく抱き寄せられたときあの甘い香りがしたけど気にしなかった。
君が僕を振るとき
それはきっとありえないことで
僕はそんな日が一生来ないように
僕は君を愛し続けるんだ
あとがき
長くなってすみません。
自分なりに頑張りましたが、タイトルを生かし切れてない気がします。
とにかく全力で愛してくれるジーノが書きたかったんです!
企画参加させていただきありがとうございます。
そして最後まで読んでくださった方ありがとうございました!
2012/02/10/17:14
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