スキビ!

□天上の星と遥かな海
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沖縄ロケに来ていたキョーコの目に、ふと飛び込んできた琉球硝子。

緑・黄色・赤・白…
様々な色と混じった青がひとつのグラスに収まっている。

キレイ…
小さな海みたい…

グラスを手に取って太陽の光に透かすと、まるで海の底から空を見上げているようだ。

キョーコは恋人の事を思い出す。

蓮さんにきっと似合うわね…。

このグラスで酒を煽る蓮は想像しただけでも凄く格好良い。

まぁ、蓮さんならワンカップだって素敵に見えるんだけど!!

「早く帰りたいな…」

仕事中は感じない寂寥感が込み上げる。

まだ沖縄に来て3日しか経っていないのに、もう恋人の腕の中が恋しい。

だめよっ!!
キョーコ!!ロケは一週間の予定なんだから!!
まだ半分も終わってないじゃない!!

キョーコは拳を握りしめ、自分自身に喝をいれた。

「ぷっ…あははは!!」

弾けるような笑い声に何事かと目をみはる。

「京子ちゃんの百面相面白すぎるっ!!」

「……城崎さん」

長い体躯を曲げで大笑いしてるのは、共演中の城崎さん。

高い長身は蓮と同じだし、ハーフであるという共通点もある。
恋人役としてはとてもやりやすいのだが、蓮は余り良い顔をしなかった。

『身長が似てるからってプライベートで間違えて抱き着いたりしないようにね』

キョーコは時々おっちょこちょいだから。

そう最上級のキュラレストスマイルを食らったのは記憶に新しい。

「あれ?また考え事?」

カーキ色の不思議な色の目がキョーコを覗き込む。

もう。
間違える訳無いのに!!

いつものカラーコンタクトで染められた目でも、裸眼でも、蓮に見つめられると身体の血が沸騰するのだ。

彼の存在がキョーコにとって特別で、他の誰かと比べようもなければ間違えようも無い。

「あー…俺、冷静に見つめ返されたの初めてだよ……」

大抵、女の子はこの目に弱いんだよ?
ぱちんとウィンクをひとつ。

「えっ?あぁ!!…すみません。考え事してました!!」

自分の意識が蓮で一杯だった事に気づき頬を染める。
眉尻を落とし、照れ笑うキョーコはとても可愛いらしい。

「……まぁ、いいけど……それ、気に入ったの?買ってあげよっか?」

城崎がつんとキョーコの持つグラスを突く。

「いえっ!!結構です!!お土産にしようかなって思ってたので!!」

「それって、彼氏に?」

「…えっとー…はい…」

その肯定は小さいがはっきりしたものだった。

蓮との約束。

キョーコの心の準備が出来るまで、公表はしなくて良いけど、恋人の有無を問われたら(マスコミは除き)存在を否定しない事。

これはキョーコに群がる馬の骨駆除の一関だった。

彼氏が居るにも関わらず、アプローチする輩には蓮が直々に手を下す事となる。

そうとは知らぬ城崎は、ナイショにして下さいね?と唇に人差し指を当て、首を傾げたキョーコに見とれていた。

もしかしたら入り込む余地が有るかもしれないと、プライベートな質問を捻り出す。

「彼氏って背高い?」

「えぇ…そうですね」

「俺位あるでしょ?」

「…何でですか?」

「よく、京子ちゃん、アドリブで目線合わせてくるでしょ?」

キョーコは恋人の演技の最中に、長身の城崎を自然に見上げたり見詰めては笑いかける。

それはとても愛に溢れていて、城崎は向けられる好意が演技では無いのではないかと思う時があった。

もしかしたら、自分に惹かれているのかも知れない…城崎はほくそ笑む。

彼氏持ちの噂は聞いていたが、イケメンで売っている自分に多少の男が勝るわけもない。
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