この魂の呟きを

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ガサリ、と足元の葉を踏みしめる。
一歩森に足を踏み入れると、鬱蒼とした木々が弥琴とアインスの行く手を阻む。
人が踏み均した程度の道はあるが、足場が悪いことには変わりない。
木の根に足を取られながらもなんとか弥琴は前に進んだ。


一日目は一軒も宿を発見できず、少し拓けたところで野宿することになった。
食堂の夫婦から頂いた保存食と寝袋代わりになる敷物が重宝する。
いくら暖かい季節とは言え、未だ弥琴は制服姿。
彼女にとって敷物は大いに役に立った。

アインスが器用に火を起こすのを見て、ふと弥琴は疑問に思う。
この世界は魔法が許される世界ではなかったか。
試しに魔法とか使えないの?と聞くと、アインスの専門外なのだと言う。
やはり魔法は使える人と使えない人に分かれるらしい。


パチパチと木が燃える。
静寂が二人を包み込んでいた。

食事を終え、ただなんとなく休憩をとっていたとき、アインスが弥琴をじっと見つめていることに気づいた。
その視線が気になり弥琴もアインスの方を向く。
「お前は」
アインスが聞こえるか聞こえないかギリギリの声で呟く。
「なに?」
弥琴が尋ねると、アインスは言いにくそうに目をそらす。

「お前は…帰りたいとか、辛いとか言わねぇんだな」
ポツリと呟くその声が妙に淋しそうに聞こえた。
一瞬弥琴はキョトンとしたが、すぐに笑った。
「そう、なのかな?確かにあまり帰りたいとか言わないけど」


アインスが今まで接してきた御事は多かれ少なかれ、元の世界へ帰りたいと懇願し、また己の身の不運と辛さを嘆いた。

確かに弥琴は最初、自分の運命を嘆きはしたが彼女はまだ程度が軽い方で、本来ならもっと拒絶する者が多い。
弥琴はすんなり己の運命を受け入れたように思う。
少なくともアインスにはそう見えた。


少し考え込むように黙っていた弥琴がふと口を開く。
「私ね、いつもの日常が一番幸せなんだろなって思うの。朝起きて学校に行って、夕方帰って…変化はないけど、幸せなんだと思う」
アインスは弥琴を見つめる。
「でも、私はどこか逃げてた。変化のない日常から、色んなことから」
どこか伏し目がちに弥琴は言う。
「だから、なんだか仕方ない気がしたの。…これはきっと私への罰なんだろうって」


御事であることを罰と捉える、ならば彼女もまたこの旅は本意ではないのだろう。
だが、何故彼女はこんなに自分自身に負い目を感じているのかアインスにはわからなかった。

「ねぇ」
ふと思いついたように弥琴が言う。
「何だ?」
燃えかすの処理をしながらアインスが答える。
まるでキャンプみたいのようだと思う。

「これまでの御事と刹那ってどうなったの?」

弥琴が質問した瞬間、ピタリとアインスは作業する手を止めた。
だが、また何事もなかったように手を動かし始める。
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