この魂の呟きを

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ガタガタと揺れる馬車の中で、アインスは吐き気と戦っていた。

宿を出て、三の国中央部に向かう馬車に乗り込んだは良いものの、アインスは乗り物に酷く弱いらしい。
ケロリとしている弥琴の横で、「あー」とか「うー」とか意味をなさない声が響く。
酔い止めなどという都合の良いものは勿論持ち合わせておらず、アインスはひたすら呻いていた。

「…やっと、着いた…」
幾分出発前よりゲッソリした様子でアインスが呟く。
ここまで弱っているアインスを見るのもなんだか楽しいと思うのは失礼だろうか。


三の国中央部はアインスが言ったように、砂がかなり舞っていて、木々が枯れたように茶色になっている。
レンガ造りの塀で囲まれた区画の中は、レンガ造りの家が所狭しと並んでいる。
門には赤い提灯がぶらさがっていて、弥琴は中国のような印象を受けた。
周りの人々もいかにも中国といった服を着ているため、弥琴はなんとなく場違いな感覚に囚われる。

未だに弥琴はボロボロになった高校の制服姿のままであり、人々からは奇異の視線を注がれる。
宿に泊まるときは備え付けの服を着て、洗濯をしてきたりもしたがそろそろ限界なような気もしてきた。

ちょうど目の前の店に女物であろう服が掛けられている。

「アインス、服を買いたいんだけど…」
未だに胸の違和感と戦っているアインスに問うと、懐から小銭を幾らか渡された。
「それで足りるだろ」
さすがに女物の服を買いについていく勇気はないらしい。

小銭を受けとると弥琴は近くの服売場に駆け込んだ。
こちらの服装の基準がわからないため、しどろもどろしながらも試着をして気に入った服を選ぶ。
制服は仕方ないがそのまま捨ててもらい、買った服を着て弥琴はアインスのもとへ向かう。


「アインス、アインス!似合う?」

買ったばかりの服で弥琴はアインスに詰め寄る。
オレンジ色の中華風の丈の長い服に黒のスパッツといった服装の弥琴にアインスは目を瞬かせる。

「…随分印象が変わるもんだな」
褒めるでも貶すでもなくアインスは思った通りのことを口にした。
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