公太郎

□スケープゴート
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:タイショー




…驚いた。


まさかハム太郎の方から話し合いを持ち掛けて来るなんて。
本当は俺様から言うつもりだったのに、中々言い出せなかった。

いや、それどころかハム太郎を避けてた。


俺様は、ずっとリボンちゃんのことが好きだった。


一目見た時から夢中で、中身を知ってもっと好きになった。
放っておけない、守ってやりたいと思った。


でも結局それを打ち明けることは出来なかった。
打ち明けて、せっかくここまで築き上げた関係が壊れてしまうのが恐かったから。

今まで通り傍で見守れるだけで十分だと、自分に言い聞かせてきた。


だからリボンちゃんから告白されたハム太郎が心底羨ましかったんだ。

悔しくて、苛々して、どろどろした感情がどんどん溢れてきた。たぶん好きな人を盗られた嫉妬だったんだと思う。


こんな気持ち初めてで、戸惑いを隠せなかった。
盗られてからどんなに好きだったか自覚したって遅いのに。


気まずいのもあったけど、ハム太郎を見るたびふつふつと怒りが込み上げてきて、一緒になんかいたら俺様は何をするか分からない。
抑えられる自信がなかったから、避けるしかなかったんだ。


都合の悪いことには眼を瞑って、全部後回しにしてきた。
先を越されてしまったのも全部自分のせいなのに、それが最善の選択だったとしてもハム太郎を傷つけてしまったことには変わりない。



…俺様、最低だ。



それに比べてハム太郎は、強いよな。
身体は小さいけど、あいつはどんな物にも恐れずに立ち向える勇気を持ってる。口には出さないけど、憧れてたんだ。


分かってる。ハム太郎ならきっとリボンちゃんを幸せに出来るって。
もう俺様の入りこむ余地なんてないんだって。

この気持ちは2人の幸せの邪魔になってしまう。
だからずっと俺様の心の中だけにしまっておこう。


ハム太郎に逢ったら、許してもらえるかなんて解らないけど、精一杯謝って、リボンちゃんを頼むって潔く身を引くつもりでいる。



それが今の俺様に出来る一番の罪滅ぼしだから。











生物室に行くには絶対に1年の教室の前を通らなければならない。


よく遊びに来ていたのに、例のことがあってからはなるべく近づかないようにしていたからなんだか懐かしい。

「あ…」

教室には、リボンちゃんとハム太郎。
2人きりで何やら楽しそうに話し込んでいる。付き合ってるんだもんそのくらいするよな。
頭では分かっていても実際そういう場面を眼にするとやっぱり結構へこむ。


リボンちゃんを見るのも久しぶりだった。

相変わらず絹みたいになめらかな髪をサテン生地で出来た青いリボンでツインテールに結んでいて、動くたびにさらさらと流れる姿に釘付けになった。

心拍数が上がって、顔が熱くなる。胸の辺りがきゅ、って苦しい。
でも、なんだか優しい気持ちになるんだ。

その髪に、その頬に、ずっと触れてみたかった。
そのキラキラした笑顔で、俺様だけを見詰めて欲しかった。
もう叶わない、虚しい願い。


「…………っ!」

しばらくして、ハム太郎が急にリボンちゃんを抱き寄せた。
薄暗い教室の中で夕日に照らされた2人は本当にお似合いで、リボンちゃんの幸せそうな顔が余計に俺様の心を締め付ける。


やばい…泣きそう。


いたたまれなくなって、俺様はその場を後にした。

さっきしたばかりの決意が揺らぐ。


悪い、ハム太郎。
改めて痛感した。


俺様は…やっぱりリボンちゃんが好きだ、って。

肝心な時に勇気が出なくて行動に移せない俺様だけど、信じて欲しい。この気持ちだけは本物だってこと。


格好悪いけど、リボンちゃんが幸せならそれでいい、なんて思えないから。

このまま大人しく引き下がるなんて出来そうにない。


ちゃんと伝えて、

『ハム太郎が好きだから』

ってはっきりふられたなら、そしたらきっと2人のことを心から祝福できると思うから。
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