公太郎
□スケープゴート
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:ハム太郎
「あ、タイショーく…」
「──────」
先週リボンちゃんに告白された。
前からリボンちゃんの好意は気づいてたけど、だからって別に自分から落とそうとは考えてなかったし、告られたからとりあえず付き合うっていう感じ。
放課後の普段あまり人の来ない校舎裏に呼び出されたんだけど、やっぱり学園のアイドルだけあって噂はたちまち広がってしまった。
それからタイショー君には、あからさまに避けられてる。
声を掛けても辛そうに眼を伏せて、今みたいに逃げられるんだ。
まあ、当たり前か。
タイショー君がずっとリボンちゃんに片想いしてたのを知ってたのに、僕は断らなかった。
別に罪悪感はないし、タイショー君に盗っちゃってごめんねって謝る気もない。
だって無理矢理奪ったならまだしも、告ってきたのはあっちだし。
それに普通こんな上玉放っておく方がおかしい。
なのに何で僕がこんな思いしなきゃいけないんだ。
幼なじみを無視出来るようになるほど、リボンちゃんのことが大事だった?
そんなに好きだったんなら、さっさとモノにすればよかったのに。
リボンちゃんと付き合ったことは後悔してない。
優しいし、可愛いし、彼女として申し分ないと思ってる。
でもとばっちりをくらった怒りとは別に、何でこんなに苛々するんだろう。
…タイショー君だ。
うん。きっとタイショー君のせいだ。
ずっとこんなぎくしゃくしたままじゃ気分が悪いし、1度ちゃんと話をつけないといけないと思う。
休み時間にタイショー君の教室まで行ってみたけど、2時間目から授業に出ていないらしくて結局逢えなかった。
屋上か…。
タイショー君がさぼるのはいつものことで、大抵そういう時は屋上にいたから。
迷わず4階まで上がり、重いドアを開いた。
一気に明るい光と風が吹き込む。
────眩し…。
目を細めながら辺りを見渡すと、案の定タイショー君はフェンスに寄り掛かり煙草をふかしていた。
切れ長の眼が大きく見開かれる。
「ハム太郎…」
でもすぐに目線は逸らされ、ガシガシと煙草を踏みつけると足早に扉に向かって歩き出してしまう。
せっかく見つけたのに、また逃げられる。これじゃ気まずいままだ。
「待って!」
叫んで、すれ違いざまにタイショー君の腕を掴んだ。
タイショー君はびくりとして、僕の方を見た。
「今日の放課後、生物室に来て。…ちゃんと、話し合いたいんだ」
ゆらゆらと不安げに瞳が揺れる。
「…分かった」
でも、静かな声でそう答えた時のタイショー君の眼は、何かを決意したように真っ直ぐ僕を見詰めていた。