★星屑★

□謝らないで
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「帰る用意が出来たらでかまへんから、
後で奈落来て。」


役を離れたちえさんが初めて私に見せる鋭い眼差しに、心がざわめいた。















「あたしにだけは、
 分かんねんで。」




抑揚を押さえた話し方に
その怒りの大きさが
怖い程に伝わってくる。



「明日には皆に分かる、
明後日にはお客さんに分かる。
―――損するんは、自分やで。」



「はい…」




普段は温和なあなたをここまでにさせた理由は…


そう

考えるまでもない。



「何があったん。」



今日の私は、
昨日までの様な真っ直ぐな心で
ちえさんの目を見つめることが出来なかった。



ただ、
こう言うしかない。




「すみませんでした…」



「そんなんが聴きたくて
こんなとこまで呼び出したんと違う。」



「すみません…
明日はからはもっと頑ばっ―――――」

「あたしにも、
言われへんことなん?」








―――あなたにだけは

    言いたくない






「……………………」
「……………………」








このまま沈黙が続けば、
それが二人を阻む
深い川になってしまうのではないかと、
言いようの無い不安に襲われた時






「…りかと、
  何かあった?」







ちえさんは


静かに
でもはっきりと、


その名前を口にした。






以前にも同じ様に訊かれた事はあったけれど
今度はもう、
はぐらかすことなど許される訳も無い。

苦しくなる呼吸から自分を救い出す様な思いで
深く息を吐き
ゆっくり瞼を閉じ
そして再び開くと、




「――あったんやな。」



それが私の肯定だと
まるであなたは理解したように
迷わずに、そう言った。







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