★星屑★

□今はまだ
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side K


この時間は、まだ私だけのものだ…






「私、大丈夫でしょうか…ね…」



心細そうに呟く彼女の横顔には
開演前の薄暗い舞台の袖にいても、綺麗な睫の影が出来ている。



「めずらしいなあ
そんな自信無さげなねねちゃん」


「あーもう、
なんか人聞き悪いじゃないですかぁ〜」


「大丈夫やで、
柚希さんについてったら間違いないんやから。いっぱいしごいてもらい」


「そうですよね!
私、公演終わる頃にはタンゴのスペシャリストになっちゃってたりして♪」



いつもの彼女に戻った。




これで良いんだ、これで。












組替えしたての頃に乗り越えなければならない壁。
人間関係、お化粧、
環境の変化で改めて思い知らされる自分の実力…。
数えたらきりがないけれど
それらは全て未来の自分の為になる。
わたるさんもとうこさんも
そう仰っていた。

ねねちゃんがこの組にやって来た時も、
少し前の自分に重ね合わせ
心の中でエールを送ってたっけ。


いつも、どんな時も
屈託ない笑顔を振り撒く彼女に男役は皆メロメロだったな…。






だけど…
私はずっと気付いてたよ。


君がそうやって自分を奮い立たせてたこと。
笑顔という鎧で、いくつもの嫉妬を撥ね退けていたこと。




強いな、と思った。
強くて美しいな、と思った。






だけど、それだけだ。



私が彼女と同じ世界で生きられるのは、あと僅かなのだから。











「かずさんには、
なんだか弱音吐きますよね
       …私(笑)」


「プッ…なんやそれ(笑)
随分客観的な言い方やな」



顔を見合わせて笑い合う。








そして…
―開幕のベルが鳴る―






また今日も、
夢の世界の幕が上がる。


この、強くて美しい人の恋人で居られる板の上の時間は………





僅かだけれど、

今はまだ………



――――私だけのものだ。








End
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