★星屑V★
□真夏の一秒
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〜side N〜
その日は、いつものようにちえさんが粗方の予定を決め、映画を観に行くことになっていた。
ところが直前になって、急な仕事が入ったのだ。
終演後、目の前でプロデューサーから取材の話を告げられているのを見て、二人になってから「仕方ない、映画中止ですね」と私が言うと、「もう席とってあるし、誰かと行って来れば?」と返された。
なんだかちょっと、不満だった。
急に呼び出されたり休みが返上になったりすることは日常茶飯事だから、そのせいでこうして休日の予定が変更になることにも慣れっこだし、そのことをどうこう思ったりすることもない。
じゃあ何が不満なのかと言われたら、それが自分でも良く分からなかった。
ただ、私が言われた通りに違う誰かと行ったなら、ちえさんもまた別な誰かと行くのかもしれないと思うと、そうしろとちえさんの方から率先して言われると、柄にもなく、やっぱりなんだか気乗りはしなかった。
けれど
「そうですね、わかりました」
適度に不満を抑えた口調で端的にそう答えた私の気持ちになんて、露とも気付いていない様子でちえさんは、
「ガッツとでも行って来、
わたしの奢りやで(笑)」
余裕で笑う。
ついでに言うと、改めて別な日の予定を立てようともしてはくれなかった。
だから、
「じゃーそうします」
無理矢理の笑顔を同じく余裕っぽく作って返してみたのに、結局ちえさんは、唇を結んだまま口角を上げ、「ん」と頷いただけだった。
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