★星屑V★

□二月のエデン
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私達は、二人で顔を寄せ合うように料理を選んでいた。
足元には存在感たっぷりの大振りな紙袋が二つ。




「んふっ」




彼女はそれをちらりと見ては、はにかんだ笑顔と共に視線の先を私に戻す。
この席に着いてから今まで何度も繰り返されるこの仕草に、私は飽きもせず…いや寧ろ楽しんで付き合っていた。



「……なに(笑)?」


「うんんっ
  なんでもっ♪」


「はあ(笑)?」



私は満足していた。

好きなように彼女を連れまわし、自分の気に入った物を彼女に選び、そんな私に恥ずかしそうに従うその顔は、この上なく私を幸せにした。






「真剣に選んでる?」


「選んでる」


「じゃあどれにすんの」


「ちえさんと一緒の」


「全然選んで無いやん!」


「えへっ」






オーダーを催促するように先に運ばれてきた飲み物のグラスを、広げたままのメニューの上でカチンと合わせる。



「決まった?何食べるか」



「今日はほんとにっ――」



人の話も聞かず言いかけた彼女が言葉を止める。


「――ん?」



その表情で粗方察しの付いた私は、それとなく店内を見渡した。


満席に近い店の中で、案の定、躊躇の欠片も無く揃ってこちらを見ているテーブルを見つける。



「乾杯」


それでも私は改めてグラスを鳴らした。
甘い香りと共にシードルの泡が軽やかにはじける。



「ちえさん…」


「いちいち気にしてても
    仕方ないやろ」


「……………」


「何がヤなん」


「ヤ、って訳じゃ」


「私と一緒にいるとこ
     見られんの?」


「だからヤって訳じゃ…」


「だったらほら」


「…はい…」


「ほーら!」


「うん…乾杯っ」


控えめな笑顔でやっと応じた彼女に


「かんぱあ〜い
 あ、どうせやったら
     隣来る(笑)?」


半分以上本気で言うと
予想通りに無言で睨まれ、


「その怖〜い顔も
   見られてんでー」


「もーっ!」



仕方が無いので冗談で返した。




けれど、




「あ…」




私はテーブルの下で偶然を装い膝を触れ合わせる。



「今ちょっと
   ドキドキした?」



「……………///」



「したやろ絶対(笑)」



「してませんっ!」



「フフッ」



動揺したように落ち着き無く瞬きをする瞳を見つめたまま、もう一度同じことをした。




「ち、ちえさんっ」



「ん?」



「『ん?』じゃなくて///」



「いいやんか、
   見えてへんよ。
 ってゆーか見えてても
    …構へんわ…」






まだ一度もグラスに口を付けていないのに、みるみる紅くなる彼女の顔に
ひょっとしたら自分以外の誰かも気付いているのではと訳も無く嫉妬しながら
それとは反対に、この顔を無性に誰かに見せたい、
そんな複雑な感情を
私は一人、持て余した。


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