★星屑V★
□夢見る頃を過ぎても
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楽屋を訪れる少し前、おもむろに鞄を開け掌ほどの手鏡を出し、花弁みたいなピンクを唇にさし出した彼女に
「めずらし」
と、皮肉ってやる。
人から注目されることを苦手とする彼女は、観る側にまわる時には自分を飾り立てるようなことを一切しない。
それが今日はどうだ。
頭にピンクのリボンまでつけて。
「…ン?」
ぽってりと艶めく唇を尖らせ、ぼんやりした顔を斜めに傾けながら聞き返してくる彼女に、「りかに会うの久々やからおめかししてんの?」なんてことは、寸でのところで言うのをやめた。
どうせ鬱陶しがられて軽くあしらわれるのが関の山だ。
「そろそろ行くで」
「はあ〜い」
「絶対寒いからなんか上羽織るもん持って行きや」
「寒いかな」
「寒いって」
「じゃあコレ持っていこ〜」
「そうしとき」
腹ごしらえを済ませた私たちは、揃って食堂の椅子から腰を上げる。
開演まで、20分と少し。
三人が揃って顔を合わせるのは、久し振りだ。
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