★星屑V★

□Home sweet home
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「なあ」


「ん?」


「今ってまだお母さんあっちやんな」


ロッカールームの隙間に置かれた細長い椅子に跨いで座り、その上で洗濯に出す物と自分で持ち帰る物とを二つの鞄に淡々と分けながら、ねねに訊いた。


「そうです」


自身のロッカーの前で、その中を整理しながら至ってシンプルに答えてくる彼女。


「やんな」


「うん。………ぅん?」




檸檬色のスカートをシワにならないよう慣れた手つきで畳み、クルクルと丸めていた手をピタリと止め、小首を傾げてこちらを見る。




「今日そっちにしよっかな」


「…どうして?」


「なんとなくやけど、たまには」


「大丈夫は大丈夫…ですけど」



あっちだの、そっちだの。相手がねねでなければ伝わらない話だ。
この場合、”あっち”は妹のいる方で、”そっち”は彼女のいる方。
要は、その日部屋には彼女一人なのかを一応確認する為の、私たちの間でたまに交わされる慣れた会話だ。

今日は、当初の予定を変え彼女の部屋へ。



「大丈夫ならそっち泊まる」


「ちえさんッ」


「ダメなん?泊まる気満々やったのに」


「そうじゃなくてッ」



しかしどうやら「泊まる」はNGワードだったようで、声を殺して必死に訴えてくる彼女に、



「さっき研一さん達出てったから
        とっくにうちらだけやで?」


私は呑気に出口を指さした。

胸に名札をつけたどこかの組回りの子達が、私たちふたりがここへ連れ立って入ってきたのに気づくと、何に気を回したのかそそくさと出て行ってから、もう随分経っている。


「…ほんとに?」


「うん」


「なんだびっくりした…」


「つーか”泊まる気満々”てな(笑)」


「…なんかやらしいし(笑)」


誰もいないと分かると途端にこんなことを言う。


「やらしいゆーな(笑)」


でも私にはそれが嬉しいのだ。
二人きりなら少しくらい、たまにはここでこんなことも、話したっていいじゃないか。


しかし、それも長くは続かないのが私たちの常。


「ちえさんそろそろ時間じゃないですか!?」


「あホンマや!」



慌てて共に帰り支度を済ませると、時間を見計らい私が一足先に出る。



「じゃ後でな」


「あっ」


「なに?」


「ちょっとお買い物したいから――」


「わかったゆっくり行くわ」


「お願いしますっ」


「うんお疲れー」


「お疲れ様でしたぁ」




そして、しばらくしたら、彼女もまた彼女を待つ人たちのもとへと出て行くのだ。














それが今の私たちふたりの数少ないルール。






たとえ




帰る先が、ひとつでも―。







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