★星屑U★

□escape
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「緊張しすぎだよ(笑)」


「―――えっ!?」


「緊張しすぎ。」


「かなめさん…」


「それじゃ、ねねらしさが出なくなっちゃうよ?」


「…………。」


「ほーらっ!リラックスリラックス!」



自分愛用の小さなマッサージ器で、大きな重圧に硬くなった彼女の肩を押した。



「…ハイ………笑」




舞台稽古開始までまだ二時間以上ある。
なのに既にガチガチに緊張する彼女に、声をかけずにはいられなかった。
それが、私の役目なのかどうかは、正直自信がなかったけれど。


そう言う私も本当は、抱える不安にどうにか打ち勝ちたくて、こんな時間に楽屋に入ってしまったのだ。




「ちえさんてさ…
    凄いよね。」

「え?……は、はい…。」


「追い付きたいけど…
 当分無理だわ…私(笑)」

「かなめさんは!
     …そんな…」


「ねねちゃんは
ホントに正直だなぁ(笑)」


「……?……」




そう。
君も思っている通り、
無理なんだよ、何もかも
まだまだ…今の私には…


だから不安にもなるし
自分に苛立ちもする。



「…んーん。
  何でもないよ。」



自分がどれだけ正直な瞳をしているのかを未だに気付いていない彼女は、不思議そうに私を見ていた。




「ある意味同志かもね、
       私達。」


「同…志?」


「うん。ちえさんって人にひたすらついて行く」


「…本当、ですね…」


繋がっていられるのならそれでも良いと、私は思う。


「かなめさん、」


「ん?」


呼ばれるだけで、
嬉しいんだ。


「ちえさんは…」


その先に続く言葉が、
何であったとしても。


「ちえさんは…私で…
  私なんかで……
   いいの…かな…」


それは、相手役として?
それとも―――


「な〜んて!
そんなこと言ってる暇あったらお稽古しろ!って怒られちゃう(笑)」


そうかな?
きっとあの人のことだもの
君の抱える不安など全部包んでくれるに違いない。







でも………



「ねえ、」


「はい?」


「行こ!!!」


「えっ!?!?」




今は私が………







「ちょっとだけ、脱走!」




「ちょっ!かなめさん!?」




彼女の手を取り、
駆け出した。





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