黄昏の行方
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「…一週間前、ここの校長が依頼に来たんだ。取り壊し工事をしようとすると事故が起こる旧校舎を調査して欲しいと…」
その、それが…
「旧校舎は祟られている」
という
妙な噂がありまして…
と
『ふーん…で、私は何をしろと?』
「その旧校舎の怪談について、何か知ってるか?」
『あー…うん。昨日ミチルが話してくれたよ。えーと、内容はね…』
「待った」
話そうとしたら、そう言って、レコーダーを取り出し…
カチッ
録音ボタンをおし
始めて
と言われた…
『ん。えーとね…』
そう言って、昨日流して聞いた話を語る
旧校舎は崩れてるのでなく、取り壊そうとしたが工事がストップしたから…
頻繁に起こる火事や事故…
生徒の死、自殺した教師…
見つかった子供の死体…
取り壊そうとした時、相次ぐ作業員の病気・事故、機械の故障…
屋根が二階ごと落ち、一階の人が全員死んだ事…
そして、工事が中止になった…
去年、工事が再開されたが、また同じ事が起こったという事…
トラックの暴走でグランドに突っ込み、生徒が死んだ事…
夜、先輩が旧校舎側の道を通った時みた、生徒らしき影…
『…こんなもんかな』
カチンッ
静止ボタンの音が響く
あー…よく覚えたな、私
「…なるほど」
『で、この話ってどのくらい本当なの?』
「…旧校舎が使われていた間に死人が多かったのは事実だ」
『ふーん…』
でも
と、朔夜は続ける
『居ないと思うけどなぁ…』
「…何故そう思う?彼女が見たという事が嘘だとしても、違う何かがいるかもしれない…しかも君は朝に心霊現象かもしれない体験をしただろう?何故そう考える?」
問い詰める様な、そんな口調に、朔夜は目をぱちぱちと瞬かせ
苦笑しながら口を開いた
『だってさ、あんだけ古いんだし、しかも半壊してるんだよ?』
「…だから?」
『だ・か・ら、今朝のやつはただの事故だと思うの』
今朝も言ったでしょ?
と、首を傾げながら朔夜は続ける
『大体さ、木造建築なのにずっと雨風に晒してるなんて…傷んでるどころか腐ってるんじゃない?白蟻とかも居そうだし…
もしそうならさ、建物が軋んだって不思議じゃないでしょ?』
「…確かにな」
『でしょ?だから今朝のは心霊現象じゃないと思うの』
「そうか…だが、これでも仕事で来ているからな。調査は行う」
『…そ』
もとよりこれで調査が無くなるとは思ってないし、予定調和な進行を思い
朔夜はつまらなさそうに欠伸を漏らした
先程まで寝てた余韻で、まだ少し眠いのだ
『…あ、そうだ』
思い出したようにそう漏らせば、何だ、と眉を寄せた
綺麗な顔がもったいない、と頭の片隅で思うが関係ないのでスルー
『私、幽霊を信じてない訳じゃないから』
そう言って、口角を上げ笑えば、少し驚いたような顔をした
それもそうだろう
今朝と、そして先程の発言を聞けば、朔夜は幽霊の存在を否定している側の人間だと捉えるのは仕方ない
でも、違うのだ
幽霊は、居る
霊は居るのだ。この世に、確実に…居る
目の前にいる彼は、みえていないだろうが
でも、朔夜はそれがみえる。視えている
そこに在ると知っている存在を、そこに居ると分かる存在を、否定するハズがない
「霊を信じているのか…?」
『ううん、ちょっと違う。霊はね、居るの』
ニッコリと笑って、断言する
否定は、させない
じゃ、お先に
そう繋げて、足を進める
向かう先はもちろん、旧校舎
彼が何か言おうとしたのを知りながら、無視して速足で進む…
―――――さぁ、物語は始まった