黄昏の行方

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ぐい、と
ハンドタオルを額に押し付け、くるりと振り向く



『手伝ってくれます?』

「……何を」

『とりあえず、コレ押さえてて下さい』



黒の彼に額を任せ、再び鞄を探りペットボトルとタオルを出し、ドバドバとタオルを濡らす

押さえていた腕辺りをソレで巻き、冷やす



『他は』

「…え」

『他に怪我した所、ないですか?』

「…大丈夫です」


それを聞き、ほぅ、と息を吐く



『…とりあえず、額は押さたままにして下さい』



そう言って、立ち上がる



『じゃあ、病院まで案内します』

「…いいのか」

『何がですか?』



キョトン、と
首を傾げながら問う

黒服の彼は、ゆっくりと口を開いた



「…さっき、チャイムが鳴ったがいいのか?」



それを聞いて、ニッコリと笑う



『大丈夫ですよ。私、成績いいので多少授業に遅れても問題ありませんから』



あくまでも爽やかに、笑う


「「……」」




沈黙を返されたが、気にしない

何はどうであれ、優先すべきは怪我人だ


黒服の彼は何かを考えるような間を開け、口を開いた



「…じゃあ、案内を頼む」

『ん。承りました』



ぱっぱっと怪我人さんを病院に届けますかね!








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『それじゃ、私は戻りますね』

「…その前に一ついいか」

『何ですか?』



病院に付き、直ぐさま治療室に連れて行かれた男性を見送り
自分はもう用はないだろうと思ったが、引き止められ首を傾げる



「さっき、壁がいきなり軋んだと言っていたな」

『あぁ…はい、言いましたけど…』



…それが何か?


コテン、と
首を傾げて疑問を返す

あの時、あんな現象が起こる事はなかったハズだが、実際に中に入って分かった事がある

―――木材の老朽化が酷く進んでいた

あれでは、いつ崩れてもおかしくはない
歩く度にギシギシと軋み、更に壁には皹が入っているのを確認した


眉間に皺を寄せ、少し言い辛そうながらも口を開く彼の言葉に耳を傾ける…



「…何か、変な事はあったか?」

『む?』



変な事、とは…つまり…
・・・・・・・・・・
そういうコトについて聞きたい、の…かな?

でも、さ



『別に、特に何も?』



残念だけど、何もおかしい点はなかった



『あんなおんぼろ半壊校舎なんだから、さっきみたいな事あったって不思議じゃないでしょ?』



そう言って、学校に戻る為くるりと踵を返す


いくら成績はいいと言っても授業に出席しないと内申が下がってしまう。それは、ちょっと、避けたい

…まぁ、普段の授業態度が良いからそこまで下がる事はないだろうけど…



「…そう。あぁ、そうだ…キミ、名前は?」

『…谷山麻衣。ちなみにクラスは1‐F』



んじゃ、私学校行くから
そう言って、少し早足で病院を出る。あまり、病院は好きではないのだ…
かと言って好きな人もそうそう居ないだろうが…


ふぅ、と
息を吐き、早足から駆け足へと変えスピードをあげる

多分、全力で走れば1限が終わる前にはつくだろうと思いつつ、先程自分が言った事に笑う

さて、彼は気付くだろうか
こんな簡単で単純で平凡な現象のヒントに、なっただろうか

…ま、どっちでもいっか


気付いたにしろ、気付かなかったにしろ
彼はこの仕事をやり遂げるだろうから…



クス、と笑い
また走るスピードをあげる。校舎が見えるまで、後少し…













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