歪みの国のアリス

□落ちていく
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私はお母さんの死は望んでなかった。
そう自身に言いかける。

「私、…私は、ただ」

お母さんに笑って欲しかっただけ。
お母さんが幸せそうにしてくれれば、他に何もいらなかった。
きっと幸せそうにするお母さんは、私を叩いたりしない…。

「私、結局は私が叩かれたくないだけ」

私はため息と共に、フェンス越しに見える街並みに視線を戻す。

「アリス、歪んではいけないよ」

本当は私、お母さんに死んで欲しかったのかな。
そう考えた瞬間、涙が頬を伝った。

「…あれ、」

どうしたんだろう。

「アリス、君はお母さんに生きていて欲しいと望んでいるのさ。君はさっき歪みかけたけれど、そうやって涙を流すことで、アリス自身で歪みを吐き出すことも出来るんだよ」

私は包帯の女のことを考える。
あれは、私がお母さんに生きていて欲しいと思う心の表れなのだろうか。

小さい頃、布団の中で一人、もしお父さんとお母さんが死んでしまったら、と考えてとても悲しくなり、まだ起きていた二人のもとへ行って泣いたのを思い出した。

「アリス、君はお母さんの死を望んでいなかった。けれど、僕は白兎は間違って無いと思う」

いつでも私の幸せを最優先に考える彼らは、お母さんがいなければと考えることもあったことだろう。
私もまったく考えなかったわけでもない。

「そう…チェシャ猫、あなたもずいぶん歪んでしまったのね」

私は涙を拭いて、お母さんのことを考える。

武村さんとの再婚について話すお母さんは、本当に幸せそうだった。
毎日機嫌が良かったし、よく笑っていた。
その分、あの日私の身に降りかかった歪みは大きかったことだろう。

次は兎のことを考える。

歪んでしまってまで、私のことを考えてくれる白兎。
彼とのことはあまり思い出せないが、とても優しかったように思う。

決着を付けなければいけない。
きっと、その時は一人だ。
私の愛していた人を殺した、私を愛してくれる白兎との、決着だ。

どうなるかはまだ分からない。
けれど、彼らが望んでくれるように、私はお母さんが居ない世界でも生き抜いて、幸せになりたい。



本当に私が幸せになれた時、傷付いた笑顔に包帯を巻くお母さんの、本当の笑顔も見れることだろう。












fin.
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