歪みの国のアリス
□病室、キミは選択を誤った
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それでも私がこの部屋から逃げ出さなかったのは、もう少しの間だけでも親友と呼んだ彼女を信じていたかったのと、彼女の正体がもし私を欲しいと言ったなら、この命ごと差し出そうという心構えがあるからだ。
雪乃はドアの前で立ち尽くしている。
彼女がそこに居ることで、彼女にとって入口であったところが、私にとって出口では無くなる。
「雪乃」
私は親友に話し掛ける。返事は無い。
「雪乃、来てくれたんだね」
少女はドアの前でゆらゆらと立ち尽くしている。
「私ね、気付いたらここにいたの」
私は体中から汗が吹き出てくるのを感じる。
「このメロンね、昨日まで猫の首だったのよ」
だから布で覆ってあるの、可笑しいでしょ。
「お母さん、今どこにいるのかな」
少女の手がピクリと動く。
「…シロウサギ?」
ピントの合っていなかった少女の目が、笑みを湛えたまま私を見る。
いつかに私の腹部から吹き出した液体の色をしている瞳に見つめられ、私は動けなくなる。
少女もドアの前で立ち尽くしたまま、時が止まったかのように動かなくなる。