歪みの国のアリス
□私を導いて、あなた
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僕は、やはり僕だけのアリスを手に入れることは無理なのだと、アリス本人から言われた気がして、アリスの二度目の言葉には、
「そうかい」
と笑っていない笑みを口元にたたえた。
僕は顔に出やすいタイプのようだ。
アリスはそんな僕に気付いたのだろう。
一瞬泣きそうな目をしたが、すぐに僕から顔を逸らしてしまったので、僕にはいまのアリスがどんな表情なのかわからない。
アリス、僕はアリスのすべてが欲しいんだよ。
今見せてくれた泣きそうな目も、僕以外いらないと言った口も、僕のローブを掴む手も、全部、全部ぜんぶ。
だから、
「アリス、こっちを向きなよ」
アリスが僕の足元を向く。表情は、やはり見えない。
僕はアリスの手を取り、彼女の歪みを吸い取る。
僕にとってはアリスの歪みすらも愛おしい。
アリスの歪みを吸い取ったからか、彼女は僕にまた優しい微笑みを向ける。
そして
「あなた以外いらない、っていうのは…ウソなの。チェシャ猫、ごめんなさい」
とアリスは本音を口に出す。
でもね、と彼女は続ける。
「でもね、私をあなた以外の誰にもあげたくない、って思うのよ」
僕は
あぁ、と心の中で感嘆の声を漏らす。
僕はアリスの言葉一つで窒息してしまいそうになるし、アリスの言葉一つで救われるのだ。