歪みの国のアリス

□キミと一緒
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「寒いね」

冬空の下少女が二人、どちらが言うでもなくつぶやいた。一日中寒いとだけ言っていれば会話がもってしまうほど、冬というのは寒い。
しかし少女が寒いと言ったその言葉ですら凍りつき、寒さで痺れた耳に意味を運ぶ前に雪と共に地面に落ちていった。

「あ。ほら、見て亜莉子」

白い息をはきながら雪乃がしゃがみこんだ。
積もったばかりの雪をその手ですくう。

「雪の結晶だよ」

そう言って亜莉子に差し出すが、すでに少女の手の中で雪は溶けてしまっていた。
亜莉子は立ち止まり身を縮め込ませ、うんとも、ううともとれる返事をする。彼女の首に巻いたマフラーの隙間からは白い息が漏れた。

「寒いね」

雪乃は手に残った水を払って、指先の赤くなったそれに息をはきかけた。
亜莉子はその様子を、マフラーの中に首をすぼめて眺めていた。

「冷たそう」

よくこんなに寒いのに、雪なんか触るもんだと言いたげな言葉だった。

「他人事みたいに言うね」

「他人事だもん」

「あ。亜莉子冷たい」

雪乃はむくれて見せるが、その姿を見た亜莉子は思わず小さな笑いを吹き出す。

「変なの。手が冷たいのは雪乃なのに、私のことを冷たいって言うなんて」

そう亜莉子が可笑しそうに言ったので、雪乃にも笑みがこぼれる。
足元の雪を蹴飛ばして、

「あ〜あ、亜莉子が冷たいな〜」

と、わざとらしくいじけたように腕を後ろで組んで、唇をとがらせた。
亜莉子は困ったように笑ってみせて、

「わかったよ、ごめんねー」

と軽く謝る。
けれど雪乃は知らん顔をして、亜莉子に背を向けた。
なんだこいつ、と思いながらも、亜莉子はそんな友人をかわいくも思う。

「んー…。ほら、私冷たくなんか無いよ」

そう言って手袋から手を抜いて、自身のそれと友人の後ろで組まれたそれを絡ませた。

「ん」

雪乃のその声が、許してくれたものだと亜莉子にはわかった。
二人の少女はそのまま歩いていく。
息は相変わらず白く、空は灰色がかった曇り空だった。









「ほら、雪なんて触るから冷えてるじゃん」

「あはは、他人事じゃなくなったね」

「もう…」

「なんで隣にならんで歩かないの」

「だって、手つないでるし」

「つないだまま隣に来ればいいのに」

「じゃあなんで隣に来ないの」

「何でだろう、おかしいね」

「おかしいね」

「…あったかいね」

「寒いよ」

「うん、寒いね」








fin.

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