歪みの国のアリス
□旅立つキミにさよならしよう
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アリスは僕に痛みを与える。
その瞬間、僕は忘れていたことを思い出し、先ほどまで考えていたことを忘れ去った。
今まで靄のかかっていたような頭は、この時とても晴れやかだった。
「…アリス?」
アリスが泣いている。泣かないで、って言わなきゃ。泣かなくてもいいんだよって…
「白ウサギ」
ごめんね、ごめん、ごめんなさい。アリスの口がそう言葉を紡ぐ。
僕は何故か謝るアリスに、一度首を傾げてみせてから、彼女の頭を撫でた。
「謝らなくてもいんだよ」
アリスの顔が一層悲しそうに歪んだ。
「泣かないんだよ、アリス」
と、さらに優しく彼女の頭を撫でた。いつの間にこんなに大きくなったんだろう、と頭の隅で考える。
アリスは一度顔をくしゃくしゃにすると、今度は笑顔を向けた。
僕は少しだけ安心する。
「…あなたと一緒には行けないの」
そうアリスがこぼしたが、何のことだろうか。僕は首だけ傾げる。
「私、もう大丈夫だから」
アリスはまだ涙を流していたが、とても穏やかな笑顔をたたえている。
それに大丈夫、とアリスが言った。それならこの先何があっても大丈夫なのだ。
僕はすっかり安心してアリスに笑いかけた。
「ありがとう、白ウサギ」
アリスは僕の胸に痛みを深く押し込む。その瞬間僕は自らが崩れていくのを感じ、いつからいたかわからないチェシャ猫の体も崩れていくのを見た。
彼女の肩に置かれた僕の手も、滑るように離れ落ちた。
あぁ、良かった。僕らは本当にアリスにとって必要じゃあなくなったんだね。
そう思うと、僕はとても幸福な気持ちになった。